MasaichiYaguchi

グラスホッパーのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

グラスホッパー(2015年製作の映画)
3.8
この作品には闇の世界でもがく3人の男が登場する。
不条理な事故で最愛の人を失った元中学校教師の鈴木、人を自殺に追い込む殺し屋“鯨”、ナイフ使いの殺し屋“蝉”。
この3人が鈴木を復讐に走らせた元凶の事件を軸に絡まり合い、怒涛の展開に引き摺られるように終幕に向かって疾走していく。
原作者の伊坂幸太郎さんは居を構える仙台を舞台にした作品が多いが、本作では東京を代表する繁華街、渋谷でハードボイルドなドラマが繰り広げられる。
タイトルになっているグラスホッパーが大量に空を埋め尽くさんばかりに乱れ飛ぶシーンがあるが、その体は黒い色をしている。
映画の中で、グラスホッパーは密集して育つと黒く変色して凶暴になるという台詞があるが、同じように人が密集する大都会、東京の人々がそれにオーバーラップする。
殺し屋の“鯨”は取り返しのつかない過去の出来事で重いトラウマを抱え、そして“蝉”は深い孤独を湛え、生きている実感に飢えている。
この2人は都会が持つ闇が恰も凶暴な“変種”に変えてしまったかのように映る。
だが、狂言回し的な役割の主人公・鈴木は、恋人を殺された哀しみと怒りで復讐に駆られながらも完全な黒に変色せず、本作で唯一まともで普通の存在だ。
この普通でやや気弱な鈴木を、主演の生田斗真さんはリアリティのある人物として表現している。
この3人を含めた主要登場人物が一堂に介する山場での決戦の果てに、彼らは自らが抱えていたり、嵌っている闇から脱することが出来るのか?
伊坂先生の作品らしい全てが一変する終盤の展開の後には、温もりや希望を感じさせる余韻が残っています。