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沈黙ーサイレンスーのRenのレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
4.0
原作未読。再見するかどうかは分からないけど、少なくとも160分間ぶっ通しで魅せるだけのパワーのある作品だったし、良い映画観たと思える読後感だった。

2010年代だけでも『ヒューゴの不思議な発明』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『沈黙ーサイレンスー』ともの凄い振り幅を見せてくれる巨匠。今作は前者2作にあったある種の笑いや軽率さは皆無であり、ひたすらに重厚な時間が続く。
途中で集中が切れそうになったりもするのだけど、その途端に拷問や斬首のシーンを挿入して画面を締める、そうやって観客を前のめりにする工夫があったように自分は感じた。苦しい場面はとことん苦しい。

隠れキリシタン迫害の生々しさと痛ましさが肌に触れるように伝わってくる。宣教のための行いが、結果的に信者たちを死に追いやることに繋がってしまう。宗教は人を救うのか?という創作の永遠のテーマを何のメタファーも用いず正面から描き切っているところに、決して目を逸らさせない力がある。
徹底して歴史を美化しない。日本が宣教師や切支丹へ行った残虐な行為・当時の残酷性も、また日本古来の信仰がありながら布教を行うイエズス会側の傲慢(のようなもの)や葛藤もかなり苦しみながら表現していたと思えた。

一神教信仰のキリスト等と比較して、日本では神道の八百万の神の考え方が古来より根付いているという前提がまずある。今作の信者たちもキリスト教を転生的な救いとして捉えている節があった気がしたのですが(亡くなっても天国に行けるんですよね?という発言も見られた)、そんな中で常に唯一神と向き合って苦悶していたのがキチジロー(窪塚洋介)だ。主人公はロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)ですが、おそらく今作を読み解く最重要人物は彼。裏切って→告解して を繰り返すキチジローのことを何だこいつと悶々としながら観たりもしてしまうのだけど、ラストシーンにも強調されるように彼が最も神と真摯に対面しているように思えてなりません。彼は苦しみながら、常に神と向き合おうと試みる。

キャスト陣は当然のように素晴らしい。ハリウッドの若手演技派ワンツー連れてきましたと言わんばかりの存在感を発揮するアンドリュー・ガーフィールドとアダム・ドライバー、そして彼らを確かな貫禄で包むリーアム・ニーソン。
日本人キャストも全員魅力的だったけど、やはり特筆すべきは窪塚洋介とイッセー尾形。この二人が出るだけで画面が締まり、物語が動き、何が起こるのか....と観客を無条件に緊張させられる。『バベル』の菊地凛子のようにもっと賞レースで大々的に評価されても良かったのに、と感じてしまうのは自国贔屓だろうか?

その他、
○ 殉教の結果、ロドリゴは赦され生きる。主の沈黙は沈黙ではなく「見守り」のような概念に近い?
○ "Silence" の通り音楽はほぼ無しだけど、オープニングもエンドロールも自然音が鳴り響く。八百万の神的考えに基づくと、神は「沈黙」しているのではなく常にそこに居て声を発している?キリストの概念と神道の概念が混在し同居しているように思えた。
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