Renkon

やさしい人のRenkonのレビュー・感想・評価

やさしい人(2013年製作の映画)
4.0
フランスの田舎町トネールを舞台にした、元ミュージシャンの中年男による切なきロマンスの物語。
監督ギョーム・ブラック×主演ヴァンサン・マケーニュの「女っ気なし」コンビによる、長編作品第1作目。
冬の訪れを迎えたトネールで、仄かな愛の灯火を照らすマクシムとメロディ。
しかしマクシムのロマンスは、メロディの突然の連絡拒否により終わりを告げてしまう。

過去の失恋経験を抉られる様な、鈍い痛みの残る映画だった。
特に、なぜ自分が振られたのか?という理不尽な別れ方に抗おうと、メロディの男の事をネットで調べたり、何度も留守電を残すマクシムの姿に、過去の自分の姿を重ねざるを得ない。
表裏一体の愛憎は、この「なぜ?どうして?」という想いを原動力とし、普段は見せないような「知りたい」という強い欲求と、行動力を掻き立てる(こういう時のやる気は普段どこに隠れているんだ!)
彼氏やその友達と楽しそうに食事をするメロディの事を、冬空の下で眺めるマクシムがとても寒そうだった。心も、頭皮も。

愛の終焉を信じられぬマクシムは、この後メロディとその彼氏に対して突発的で危うげな行動に出る。
そんなマクシムにメロディが言い放った「あなたは私を”所有”したいのよ!」という言葉が、これまた心を抉った。
別れた直後に「元カノが誰かに抱かれた」とか「誰に抱かれた」ということを気にするのって女より男の方が多い気がする。
かくいう自分も失恋当時そんなことを女友達に話したら、メロディと同じようなことを言われてハッとした。
こういう"自分のモノ"にしたいという考え方は、男にそんな気は無くとも、女からすれば男のエゴとして受け取ってしまうのか。
(なんにせよ、女の切り替えの早さには男はしばしば驚かされる)

メロディみたいな思わせぶりな娘ってまあいる。(しかもあの色白のムチムチボディーたまらん)
こういう小娘は「ときめきたがり」な性質があるので、自分の行動が思いもよらぬ方向に向かってしまうことを予期しないまま相手を傷つけてしまう。だが、女の色の使い方をわかっているので、男にモテてしまうのだ。
(俺も人生であと5回くらいはこういう女に振り回される気がする)

しかし、そんなメロディが選択した最後の供述に「こんな勝手気ままな小娘にも人情味があるやんけ」とホッと胸を撫で下ろした。
(この辺りで「やさしい人」って邦題はなかなか悪くなかったんじゃないかなと思った。まあ「やさしい」という言葉だけでは形容不足な気もするが)
個人的には息子がどんなに挫折をしても支えようとする、マクシムの親父の懐の深さに温かみを憶えた。

「そういえばマクシムの様にボロボロの失恋をしたのは丁度今くらいの季節だったな」と思い出しながら外に出ると、冬の訪れを報せる様な冷たい小雨が降っていた。切なさと温かみが沁みる季節がもうそこまできている。

@ユーロスペース 11/11
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