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野火のkiritoのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
4.0
【なぜ人は大地を血で汚すのか】

『映画は一定の思想を押し付けるものではありません。
感じ方は自由です。
しかし、戦争体験者の肉声を体に染み込ませ反映されたこの映画を、今の若い人をはじめ少しでも多くの人に見てもらい、いろいろなことを感じてもらいたいと思いました。』 塚本晋也


私は正直、戦争映画は観たくない。
なぜなら、生命力を奪われるから。
せっかくなら楽しい映画を観て楽しい時間を過ごしたい。


しかし、それでもなおチャレンジするのは、この戦争映画を通して自分は何を思うのか。これを確かめたいからである。


今後戦争の賛否について議論する機会は多くあるだろう。
その時に、語ることができるのはそれまで自分が本を読んで、話を聞いて、映画を観て体験したことがベースとなる。


一口に『戦争反対』というのは簡単であるが、しかし、そこに理論が、心がなければその言葉の意味は破綻する。

『戦争賛成』ある意味ではそれもいいだろう。


大事なことは事実から自分が何を感じるかである。

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さて、本作であるが
大岡昇平さんが小説にした、第二次世界大戦フィリピン戦線における日本軍の苦しい彷徨いを映画化したものである。
作者のフィリピンでの戦争体験を基にする。

1959年にも船越英二出演で同名映画が作られているが、今作は監督・脚本・製作などに加え主演する塚本晋也が、構想に20年を費やしたという一品である。
製作には出資者が集まらず、自主製作映画として作られた。


正直な話をしようと思う。
私は、途中で、席に立ってトイレに行こうかと真剣に悩んだほど、気分が悪くなった。

自分ではグロ耐性は強い方だと思っていたが、この作品は本当に別次元だった。


それは、悲しいほどの「リアル」さを追及したからだろう。
作り物のグロさはこの映画にはない。
自分が戦場にいると誤信させるほどの「リアル」。


映像に流れるのは夥しいほどの死体。
足や腕が切断されるシーン。
挙句の果てにはこの切断された腕を取り合う兵隊の姿。
銃弾によって剥がれ落ちる顔の皮膚。
散らばる内蔵。
踏みつけられる脳。

恐ろしいという次元を越えたこの描写は息を呑むどころか悪寒さえをも私にもたらした。


また、人間の「狂気」を畳み掛けるように描く。
極限状態の人間の考えることは、常人では考えつかない。
裏切り、不信。
食糧不足がこれに追い打ちをかける。
「猿」と称して食べるのは「人肉」。
そこに正義はあるというのか。


そして、対比して描かれるのは、フィリピンの島における圧倒的な自然の美しさであろう。
海、空、太陽、木々、虫、花。
いかに人間が醜い生き物であるかを、まざまざと見せ付けられる。


2015年の映画を語る上で本作は避けて通れないものだと思う。
否、そもそも戦争映画という概念さえをも覆す作品かもしれない。
戦争にヒーローはいない。

2度と観たくはないが、『絶対に観なければならない映画』。
87分という映画がここまで長く感じたことはなかった。


多くの方がこの映画を通して、この「事実」に目を向けられることを望みます。
そこから自分がどのような意見を持つのかは自由です。

~情報~
ポレポレ東中野他いくつかの映画館でまだ放映されています。
期間:~11月13日(金) 11日はお休み
時間:20時30分~
場所:ポレポレ東中野

2015.11.4
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