三樹夫

カリートの道の三樹夫のレビュー・感想・評価

カリートの道(1993年製作の映画)
3.9
『スカーフェイス』のトニー・モンタナ先生がもし生き残って刑務所から出所したらみたいな『スカーフェイス』のかもしれない続編とでもいうような作品。『スカーフェイス』はド底辺の何も持たないキューバ移民が麻薬でのし上がり破滅する様をもの凄いアゲ感をもって突っ走っていたが、こちらは劇中何一つ良いことはなく何とか堅気になろうとする元麻薬王のもがく様が悲哀をもって描かれている。そしてストリップには必ず日本人客。

たいがいショーン・ペンのせいという、映画史に残るゴミクズ弁護士が出てくる。劇中でも薄汚ねぇインチキ弁護士と言われていたが、こいつに義理を作ってしまった主人公の失態と悲劇というか、作中の悲劇の元はほぼこのゴミクズ弁護士のせいという死神みたいな男。決して巨悪ではなく、みみっちい小悪党ゆえに引き起こされる収拾のつかない事態。ベニー・ブランコもよくよく考えれば揉めた始りにこのゴミクズ弁護士がいるという、もはやこの映画の森羅万象を司っている。
そしてもう一つは主人公が義理とか守ろうとしすぎた。仁義など完全に消え去った世界で、一人任侠ヤクザ貫こうとして事態が悪化するという仁義なきシリーズの広能と同じ事態に陥っている。仁義とか義理とかより自身の幸せを取っていれば。刑務所から出て丸くなちゃって、あの時ベニー・ブランコ殺しとけば何とかなったのにと、この映画はこの時こうしてればが多くてそれもまた人生みたいな後悔の連続。

ラストの駅での鬼ごっこは完全にやり過ぎたサスペンスで、その後の悲劇が泣くというより異常なサスペンス演出が尾を引いていて思考回路はショート寸前になり感情が混乱をきたす。すごくいいタイミングでチンピラのせいでドアが閉まらず、すごくいいタイミングで警官が乗って来てというそんなわけあるかと思いつつもサスペンスは一気に高まる。挙句エスカレーターに寝そべってスイーは笑ってしまった。デパルマらしいやり過ぎで破綻ぎりぎりのサスペンス演出を堪能することが出来る。

主人公がヒロインのレッスン模様をまるで覗きのように見ていたが、相変わらず『裏窓』エピゴーネンというか、お馴染みのデパルマの女性への距離感が非モテの距離感となっている。デパルマ作品での覗きは、美女との間に距離があり、遠くから指くわえて見ているだけしかできない、絶対に手の届かない存在という非モテの美女に対する距離感が内包されている。
主人公とヒロインが抱き合ったところで役者の周りをカメラがクルクル回る演出は今作でも健在。エクスタシー表現なのだろうが、デパルマはこの演出こすり過ぎてて、回りだしたら天丼的効果で笑ってしまう。
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