小波norisuke

人生は小説よりも奇なりの小波norisukeのレビュー・感想・評価

人生は小説よりも奇なり(2014年製作の映画)
4.0
静かな映画だ。ショパンの優しい調べが、物語にそっと寄り添う。観終わってから、いろいろな思いが込み上げてくる。

39年連れ添ってきた同性カップルのベンとジョージ。同性婚が合法化されて、晴れて婚姻関係を結ぶ。しかし、ジョージは結婚が原因で、カトリックスクールの音楽教師の仕事を失ってしまう。収入が減り、住み慣れたアパートメントを売り払い、新しい部屋が見つかるまでは、やむなく別々に親戚や友人の家に居候することになる。

ただ愛する人と一緒に暮らしたい、たったそれだけなのに、なかなかうまくいかない。同性婚が合法化されても、偏見は残る。カトリックスクールの不寛容はとても残念だ。公的機関が協力的であるのは嬉しいが、マンハッタンの家探しは大変そうである。

ベンが居候する甥の家では、甥の息子ジョーイの二段ベッドの一段を借りることになる。ジョーイは、思春期真っ盛り。プライバシーが欲しい年頃に、71歳の居候は煙たい存在に違いない。

ベンもジョージも居候生活に馴染めない。何より別居生活が辛そうだ。39年も連れ添っていながら尚も熱々なのが微笑ましい。

終盤の展開に不意を憑かれた。予測出来ないわけではないが、その描写が意外だった。デートを楽しみ、別々の帰途に着くために、ベンが地下鉄の階段を降りて画面から消える。もう誰も映っていないのに、地下鉄の出入口と、その背景にあるダイナーがしばらく映される。ああ、あの場面は、こういう意味だったのかと、後からわかる。大胆な省略が衝撃的ですらあるが、その余白の大きさが、なんともいえない余韻をもたらす。 ジョージを訪ねた帰り、階段で立ちすくむジョーイ。ジョーイのまだ混乱したままの心の中が透けて見えて、胸が詰まる。ラストのスケボーで進む二人の姿は、凛としていて美しい。二人とも無言であるのが、気持ちが通じている証拠のようで、心地好い。

優しい気持ちで満たしてくれる作品だ。
小波norisuke

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