小波norisuke

家族はつらいよの小波norisukeのレビュー・感想・評価

家族はつらいよ(2016年製作の映画)
3.5
お母さんが本当に欲しかったのは、離婚届じゃない。離婚届の提出のためにかかる費用よりも、さらにお金がかからないもの。とても簡単なことだけど、お父さんは気づかない。一緒に暮らす家族も、嫁いだ娘夫婦も、突然の両親の離婚話に動揺してしまって、気づかない。

飲み屋のかよさんは、ちゃんとお父さんに教えてあげた。でも、お父さんは真面目に取り合わない。だけど、かよさんの他にも、怒られることを覚悟で、お父さんに教えてくれた人がいた。家族のつながりって、面倒くさいことも多いけれど、温かいなぁと思わされた。

山田洋次監督の作品を観るようになったのは、ここ数年のことで、かの有名な寅さんもちゃんと観たことがない。だから山田監督の喜劇を観るのは初めてだ。「東京家族」も「母と暮らせば」も、ふふふと笑える場面は多々あったが、本作は、ベタに笑わせる場面が詰め込んである。いかにも寅さんシリーズが好きそうな、年齢層高めの観客が多かった会場は、どっかん、どっかん、の大爆笑。いつもは人が笑わない場面でも笑ってしまうことが多い私だが、本作では、周囲の先輩方には負けてしまった。ゆるい笑いではあるけれど、こういう感じも楽しい。

人物描写が鋭くて、とてもリアルだ。家族って本当にこんなだよな、こんなことありそうだよな、と思う。名だたる俳優さんばかりなので、演技がすばらしいなどと言うのは失礼かもしれないが、橋爪功さんの傍若無人なお父さんぶりには感嘆させられた。笑って、最後にほろりとさせられる。さすがは山田監督、うまいなぁとうなりたくなる。

横尾忠則さんのタイトルデザインが、ちょっとレトロでお洒落だ。美術にも緻密なこだわりを感じる。「東京家族」や「男はつらいよ」はわりとわかりやすく背景に現れるのだが、「小さいおうち」はとてもさりげなく配されていたのが嬉しかった。

日本が誇る監督の技を堪能できる、人情喜劇。山田洋次監督にしか創れない映画だ。
小波norisuke

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