8さん

消えた声が、その名を呼ぶの8さんのレビュー・感想・評価

消えた声が、その名を呼ぶ(2014年製作の映画)
3.6

ヒトラーがユダヤ人虐殺の手本にしたと言われる歴史的悲劇「アルメニア人虐殺」を背景に声を失いながらも娘を探し続けた父の壮絶な旅を描いたドラマ作品。

1915年、オスマン・トルコ。鍛冶職人でアルメニア人のナザレット・マヌギアンの幸せな日々は突然終わった。アルメニア人であるが故に妻と双子の娘から引き離され、砂漠での強制労働の末に、喉にナイフを刺され命を奪われそうになる。

仲間が次々と命を落とす中、奇跡的に生き延びるも声を失ったナザレット。

もう一度生き別れた娘に会いたい…。

その想いはたった一つの生きる希望となり、平凡だった男をトルコの灼熱の砂漠から海を越え、遥か遠くアメリカ・ノースダコタの雪降る荒れ地へと導いていくのだった…


『地球半周、8年。失った愛を求めてさすらう男。その辿り着く先とは…。』


世界で初めてキリスト教を国家宗教としたアルメニア人ナザレット役を演じたタハール・ラヒムは、「サンバ」でサンバと知り合う偽ブラジル人を演じた俳優さんです。

今作では、社会情勢が起こす溢れかえった人間の悪が、出し惜しむ事なく描かれています。思わず心の痛む描写もあり、観るには勇気と体力が必要な方も少なくはないと思います。サンバの時の陽気で楽観的な人物ではなく、不運にも声を失い1度は死を覚悟しながらも真っ直ぐと前を向き、真っ暗な視界から真っ直ぐ伸びる一筋の光を探し当てるかの様な過酷な旅を、たっぷりの悲壮感で演じています。

劇中で流れる独特な雰囲気で何度も繰り返される歌のフレーズが、ナザレットの過ごしてきた8年の長さの様に聞こえてきたのは私だけかもしれませんが、あのフレーズは数日耳に残ってしまいました。

他に作品を観賞されていたお客さんの中には、吐息を漏らしながらむせび泣く方もおられましたよ。
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