ボブおじさん

キャロルのボブおじさんのレビュー・感想・評価

キャロル(2015年製作の映画)
3.9
クリスマス商戦のさ中、デパートのおもちゃ売り場でアルバイトをするテレーズは、美しい人妻と出会う。彼女の名はキャロル。テレーズは恋に近い気持ちを胸に、キャロルに誘われ惹かれ合っていく。だが二人を待つ運命を、彼女たちはまだ知らない……

『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』で知られるサスペンスの巨匠パトリシア・ハイスミスが匿名で出した幻の半自伝的恋愛小説『The Price of Salt』を映画化。

おそらくレズビアン小説家というレッテルを貼られるのを嫌い本名を伏せたのだろう。劇中にもあるように当時同性愛はモラルに反する精神的病として〝治療〟するものだと考えられていたのだ。

小説のタイトルを『キャロル』に改めハイスミス名義で再出版したのが1990年のこと、初出版から何と40年近くの歳月を要したのだ。このことを踏まえてこの映画を見ると当時の時代背景がある程度理解できる。

そんな時代の〝年上の自立した気高い女性と彼女に焦がれていく優柔不断な天使の様な女性〟の許されぬ恋愛を描いた本作。

まずテレーズが初めてキャロルに会った時の描写が素晴らしい。気品あふれるキャロルの姿を見つけ吸い寄せられる様に見つめる視線。やがてその視線が互いに交わる。ごくありふれた手順での支払いと配送のやり取りの中で抱いた神々しい高揚感。置き忘れた手袋にテレーズは、運命を感じたに違いない。彼女の表情がそう物語っている。

同性愛者が弾圧されるような時代の女性同士の恋愛は、現代とは比べ物にならない障壁があったに違いない。

何せ敵は特定の夫や恋人ではなく時代そのものだ。常識・モラル・法律など全てが今とは異なる。中でも一番驚いたのは親権を巡る法解釈だ。同性愛者は親権剥奪の合理的理由に該当すると弁護士は言う。モラルは母の愛より強いのか?

愛のためなら多少の犠牲は厭わなくても、流石に愛娘に会えなくなるのは耐えがたい。果たして二人の下した決断は?

互いに愛し合いながら時代という見えない敵に翻弄される二人の女性をケイト・ブランシェットとルーニー・マーラが静かに熱演。言葉に出来ない愛を仕草や表情を使って訴えかける。特にケイト・ブランシェットは自尊心に溢れた自立した女性でありながら、娘に対しては無償の愛を捧ぐ優しい母親という難しい役を上手く演じている。

監督は「エデンより彼方に」などのトッド・ヘインズ。彼自身もゲイであることを公表している。