チッコーネ

バトン・ルージュ 危険な罠のチッコーネのレビュー・感想・評価

4.0
本作に主演しているビクトリア・アブリルとアントニオ・バンデラスは80年代後半~90年代のスペインを代表するスター。
本作のほかにも、『凶弾』、『ボルテージ』、『アタメ!』の計4作品で共演を果たしており、同世代のベスト・カップルとでも呼びたくなるような存在感を振り撒いてきた。

『アタメ!』でアルモドヴァル監督の強烈な個性の下、伸び伸びと演技する二人の姿は最高。
『凶弾』はバンデラスに比重の置かれたアンチヒーロー映画で、アブリルは添え物的な扱いに甘んじている。
『ボルテージ』は、フランコ政権下に花開いた悲恋関係を描く硬派な作品で、監督は『アマンテス』『危険な欲望』でもアブリルと組んだ、ビセンテ・アランダである。

ベストを選ぶとするならば、やはり『アタメ!』、という意見は変わりようもないのだが、本作もよく練られた脚本が素晴らしい、上級のサスペンスであった。
大金を中心にめぐらされる男女の策謀が交錯し、一転、二転、三転していく展開は、スリリングのひとこと。
プロット重視の脚本には、大抵どこか”穴”があるものだが、本作からは矛盾らしい矛盾が感じられなかった。

前半には、怒涛のラストに向けた伏線が多数散見されたが、中でも印象に残ったのは、バンデラスがアブリルに向かって訝しげに放つ、「お前、本当に男が好きか(レズビアンなんじゃないのか)?」という台詞。
たった一行のセンテンスが、これほど多くのものを表現するというのも、ちょっとした驚きで、言葉や脚本の持つ力というものを、再認識させてくれた。
この見事な脚本は、監督自身と、アウグスティン・ディアス・ヤネス(『ウェルカム・ヘブン!』の監督)の手によるものである。

また本作には、もう一人のスター、カルメン・マウラが登場している。
彼女もアルモドヴァル作品で知名度を上げた女優だが、大して美しくもない容姿をフル稼働させて体当たりしてくるような、エネルギッシュな実存がいかにもスペイン、という感じ。
本作でも老いらくの恋に燃える中年女の姿を、存在感たっぷりに演じている。
この3人の競演というだけでも、スペイン映画ファンは必見の作品なのだ。

腐女子やゲイへのアピールポイントとして、数秒間、バンデラスのフルヌードが拝めるシーンがあることを書き加えておく。
ボカシなし、フトマラだった。

なお本作は『SEX TO DEATH 危険な罠』という邦題で、VHS化されている。観たい人は、そちらで検索する方が早道。