くりふ

パレードへようこそのくりふのレビュー・感想・評価

パレードへようこそ(2014年製作の映画)
4.0
【虹の中の「炭鉱とヘンタイ」】

大人の涙腺を北風でなく太陽のように緩ませる映画で、とてもよかった。物語展開はデキ過ぎな一方、未解決の問題も残すバランス感覚がいい。

はっきりLGBT映画ですね。原題PRIDEは誇りの意味だけど、ゲイ・パレードの呼称でもあり(日本では東京レインボープライドとか)、邦題はラストのオチも指すけれど、LGBTからの歓迎メッセージにもなっているのでしょう。

炭鉱労働者支援レズビアン&ゲイの会(LGSM)、を結成するメンバーたちが、とことん前向きなところがいい。差別に傷ついても必ず立ち上がる。そうするしかないんだ、という意思がはっきり伝わる。本作で共感の基となる動力源。だからクローゼット・ゲイだった青年がそこで殻を破ってゆくことにも、すごく説得力がありますね。

会を引っ張るマーク以下、各メンバーの個性が立体的で、演技も的確。さらにユーモラスでもぉ見事。ハリウッドスターなんかいなくても、映画で役者を輝かせることはいくらでもできる。改めて教えられます。

LGSMを受け入れる炭鉱協議会メンバーがまた、みな巧い。ビル・ナイの矜持、イメルダ・スタウントンの豪快…はもちろんのこと、名も知らぬデラックス体型おばちゃんの真っ直ぐなやさしさなどがそれに負けてない。演技のアンサンブルに隙がなくて飽きる隙もない。

面白いのは、LGSMはほとんど男なのに、炭鉱側で積極的になるのは女性ばかりなこと。そしておばちゃんパワーって、ノイズになると迷惑だけど、嵌るとこんなに生かされるんだな…と改めて感心(笑)。

ちょっと考えさせられましたが、炭鉱業は産業革命を支えた歴史を持ち、地方炭鉱地の心も支えていたけれど、逼迫した英国経済はそれさえ崩さないといけない…と決断したのもサッチャリズムというおばちゃんパワーなんですよね。

本作で描かれる連帯にはすごく共感するのですが、炭鉱閉鎖とLGBT差別は違う問題で、手をつなげてよかった、と終わった気分になっちゃダメですよね。パレードの後にも現実は続くわけで。

炭鉱ストの後、サッチャーは日本企業の誘致など経済活性化をはかったようですが、炭鉱で失業したままの人って、いまだに多くいるんじゃないでしょうか。

本作は表向きLGBT映画だし、炭鉱側の描写力が、終盤近くでふっと弱くなるのはオチの意外性を高めるためでしょうが、どうやってあのオチに持って行けたのかをむしろ知りたくなりました。

協議会メンバーはそうとう苦労したはずでしょう。その辺りは作劇の弱点だと感じました。

彼らの連帯については、70年代に米国で初めて、ゲイを公言し公職者となったハーヴェイ・ミルクの活動を連想しました。ミルクは劇映画にもなりましたが、むしろ彼のドキュメンタリー映画の方に、本作の連帯を思わせるインタビューがあったことを思い出し微笑ましくなった。

英国のLGBT事情は知りませんが、パレードでのシンボルには虹を使わないようですね。世界共通かと思っていたので意外でした。ジュディ・ガーランドをネタにしていたし当然出てくると思っていたけど、見逃したのかなあ。本作のテーマにはぴったりなんですけどね。

違う色が混ざり合うことはないけれど、寄り添い真っ直ぐ、同じ道を進むという…まさにパレードは虹です。

あのエンディングの後では、東京レインボープライドに行ってみたいな、と思いましたよ。その他いろいろ感じましたが、このへんで。

<2015.4.6記>
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