一人旅

ブリッジ・オブ・スパイの一人旅のレビュー・感想・評価

ブリッジ・オブ・スパイ(2015年製作の映画)
5.0
スティーヴン・スピルバーグ監督作。

米ソ冷戦時代、ソ連の捕虜となったU-2偵察機パイロットとアメリカで捕えられたソ連のスパイ、ルドルフ・アベルの捕虜交換に尽力した実在の弁護士ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)の姿を描いたサスペンス。

冷戦を背景にしたスパイ映画は数多く存在するが、捕虜交換をテーマにしている点で珍しい。地味と言えば地味なテーマだが、アメリカ・ソ連・東ドイツの3ヶ国間交渉の模様を緊張感たっぷりの演出で魅せる。捕虜交換の交渉に対し国家が大々的に関与するのではなく、その大任が一人の弁護士に託され、彼を中心に3ヶ国間で綿密な調整が秘密裏におこなわれていく。

3ヶ国それぞれの思惑が複雑に絡んだ交渉に外交の面白さが詰まっている。
アメリカとしては、捕縛されたパイロットを一刻も早く取り戻し、自国の機密情報の流出を何としても阻止したい。ソ連も同様に、アメリカの捕虜となった自国のスパイを取り戻す必要がある。ここまではWIN-WINの関係で、今後の交渉もスムーズに進むものだと思えるが、ここで交渉を複雑にするのは東ドイツに捕えられたアメリカ人留学生の存在だ。
弁護士のドノヴァンは、パイロットの救出だけを目標に交渉するよう国から命じられるが、彼はパイロットと同時にアメリカ人留学生も捕虜交換の対象にするよう決意する。東ドイツとしては、自国を国家として認めないアメリカに国家として認めさせたいという思惑が働いており、そのためにアメリカ対東ドイツ単体で捕虜交換を実現させたい。だが、東ドイツと交渉を進める一方で、東ドイツの親玉であるソ連とも交渉しているアメリカが気に食わない。“結局、アメリカは東ドイツを軽視している”という不満が噴出することになる。
1対1の捕虜交換を強調するソ連・東ドイツに対し、ドノヴァンはあくまで1対2の交換を前提に交渉を進める。この方向性の違いが交渉を難航させ、交渉者間の政治的駆け引きが激化していく。

スピルバーグの演出手腕は流石で、3ヶ国間の交渉過程、グリーニッケ橋を舞台にしたクライマックスの捕虜交換シーンの緊迫感は圧巻。また、ドノヴァンとソ連スパイ、ルドルフ・アベルの交流とその先にある相互理解も見どころのひとつだ。捕虜交換の交渉の模様をメインに描いておきながら、国家の対外関係を越えたところで成立する人間対人間の絆を描き出している点がスピルバーグらしい要素と言える。
一人旅

一人旅