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ネスト/トガリネズミの巣穴のNMのレビュー・感想・評価

3.0
サイコホラーだが怖いだけでなく様々な展開があり、真相を想像しながら観る、見応えのある作品。
グロテスクなシーンは後半のみでそれほどでもない。怖いけど悲しい話でもある。

二人姉妹。まだ妹が小さい頃、両親が生きていた頃のエピソードからスタート。妹の語りで始まる。

続いて姉妹が成長した現在のシーンへ移るが、まず驚くのが姉モンセがまだ全身真っ黒い服を着ていること。あの時から時間が止まっているらしい。髪は毎日同じようにまとめ、装飾は母の形見の十字架のみ。

常に悲しげでさっきまで泣いていたような眼をしている。笑う時でも眉間にしわを寄せ、目にはくまがあり、童顔で若いのにおばあちゃんのような表情。妹が18だからまだ20代のはず。
何気ない会話でも、まるで怪談を聞くような表情で相手を見つめる。会話中は手指がせわしなく顔の周りを動く。

ちょっと異常なほど生真面目で頭が固く自縛的。
妹に聖書を読み聞かせたときも、喜ばしい救いであるはずの話がまるで呪いかのように悲しそうに聞こえ、妹はてっきり怖い本なのだと思ってしまっていた。
外出できないなら教会にも通っていないのだろう、信仰について正しくアドバイスしてくれる人も相談できる人もいなそう。

姉妹は家で仕立て仕事をしている。近くに店舗も構えてようだが通うのは妹のみ。
一見普通の生活をしているように見えるが、すぐにそれはいつ壊れてもおかしくないと感じる。二人は協力しているようで反発しあってもいる。実は今にも爆発しそうな精神状態。

モンセは自分は普通だと思い込みたい気持ちと、普通ではなくて両親や神に申し訳ない、という気持ちとの板挟み。家から一歩も外出できないので24時間自分自身と対峙しっぱなし。

その苦しみをよそに、普通に育っていく妹。
そんな彼女を見ていると、息が詰まるほどのくやしさ、憎しみが湧いてくる。私はこんなに苦しんでいるのに。
錯乱し、彼女もいつか普通の家庭を築き自分の元を去ると思うと不安でかき乱される。

道で男性と会話しただけで妹に体罰。言い訳も許さず、かんしゃくを起こすともう話が通じない。
しかししばらくすると落ち着いて、悲しそうに謝罪する。DVの典型。血みどろの大喧嘩をするが、翌日また仲直りをする。
怒り狂ったり、脅えて泣いたり、すがったり、とにかくモンセは不安定。

時々回想シーンが挟まれる。
父との食事のシーン。
モンセは父に恐る恐る買い物に出かけたいと言うが、まだ喪中だし妹の世話もあるだろうとそれを禁じる。
そうしているうち外に出られなくなったらしい。

何かあるとすぐ厳しい父がよみがえり、モンセの行動を抑制し、モンセを否定し、子ども扱いし、お前にはできないと暗示をかけ、精神を滅入らせてしまう。

その幻影はまるで現実そのもので、ただの回想ではなくモンセの目を見て話しかけてくることも。
辛くて、逃げ出したくて、でもどうにもできず、一人で泣きながら母の名を呼び、神に祈るしかない。

そして鎮静薬に頼る。これは相当強い薬のようで、入手が難しいらしい。

左手の薬指に指輪をしている。たまたまかもしれないが、もしかしたら信仰上の意味で生涯の貞潔や清貧を誓っているのかもしれない。カルロスのために化粧をすると父が現れることから、着飾ることはいけないことだという意識もある。
聖品で満たされた部屋。横たわる老人を癒すキリストの聖画も飾られている。困っている人には手を差し伸べるのが教えだ。カルロスが現れたとき、くしくもモンセの目にその絵が映る。

その男カルロスは、姉妹喧嘩から逃げ出した妹が廊下で寝ていた時、通りがかった男。彼女に毛布をかけてやった。
その時彼は非常に焦っていて、はやまるなと友人に何かを止められているところだった。何か事情があるらしい。
カルロスがこの家で目覚めると、妹に再会。

モンセは、彼が寝ている間に医者に診せた、家には電話がない、と嘘をつき、カルロスを外界から遮断し鎮静薬漬けにしていく。
恋する相手でもあり、モンセが現実社会へ繋がるきっかけとなるかもしれない存在。蜘蛛の巣にかかった獲物のように、決して逃すまいと逃げ道を塞ぐ。

はじめ、妹に比べモンセは母のような性格かと思われたが、むしろ逆で妹のほうが姉の理解を越えた態度も許容し、ほかの普通の人付き合いもでき、自分のことは叱りつけてきた姉がカルロスを連れ込んだことを一旦は許すという、よっぽど大人な性格で、むしろ妹が姉の面倒を見ていると言える。

ところで姉妹の父は母の死後程なく後を追ったような印象を受けていたが、別にそんなことは明言されていない。後にモンセは、14年間会っていないとだけ語る。
モンセが隠してきた秘密は、途中で大体の人は想像が付くだろう。

確かにあの時はモンセは妹を守った。しかしその後は妹に依存し、従属させ、妹もカルロスも命すら危ない。対決の時。
「私だっていやよ」
運命が違っていたら、二人とも真面目で明るい人生を送っていたかもしれない。
モンセの指輪の何気ないデザインが、最後には蜘蛛の巣に見えた。
『ネスト』。最後にその意味が分かる。

画作りはとてもきれい。建物そのものが古めかしく良い雰囲気。
途中で真相が読めてしまうところと、特筆して褒めるべき点はなかった点が残念。
マカレナ・ゴメス 現在
https://www.macarenagomez.es/fotogaleria/
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