ブタブタ

ズートピアのブタブタのレビュー・感想・評価

ズートピア(2016年製作の映画)
4.8
ジョージ秋山・作『聖豚女伝説ラブリン・モンロー』と言うマンガがあって、20年程前ヤンマガに連載してました。
動物擬人化マンガではあるのですが、内容は第二次大戦中のナチス支配下のフランスと思われる国が舞台でキャラクターはそれぞれ
狼=純血アーリア人・ナチス
犬=純血アーリア人でないドイツ人(犬と狼の混血の将校はナチス内で差別される)
豚=被支配国の市民(フランス人?)
イボイノシシ=ユダヤ人(被差別民族)
といった具合。
その他にも性悪な高級娼婦のシャム猫、僧侶のハゲタカ等々。
主人公・豚のチンピラーノはチンピラのゴロツキですが同じく豚のヒロイン・娼婦ラブリンと出会う事によりやがてレジスタンスのリーダーとなり戦争終結後の未来では大統領に(チンピラーノはシャルル・ド・ゴール?)ラブリンは大統領夫人になる事が決定されているのですが漫画はそこまで描かれず当時の有害コミック騒動に巻き込まれ打ち切りで終わってしまいました。

チンピラーノ、ラブリン、そして狼のウルフ大佐この3人を中心に物語は進み、ナチスによる侵略戦争と虐殺、動物同士の差別、弱い者がより弱い者を叩き、生きるためには仕方ないと仲間を売る者、動物の姿をした人間の汚さ・いやらしさがこれでもかと描かれ、可愛い動物のキャラクターでそれ故に余計に無慈悲で残酷な世界、狼(ナチス)は豚(市民)を支配しているだけでなく当然肉食動物なので豚の少女をレイプしたり殺したりする上に丸焼きにして食ってしまったり、豚も自分達より下の存在・イボイノシシ(ユダヤ人)を忌み嫌って差別していたりイボイノシシの商人も金で狼に取り入り豚のメイドを犯したり痛めつけたり、特に印象に残ってるのがハゲタカの僧侶が語るこの世の真理と無常「誰もが愛について語るが頭の中はSEXと食い物の事だけ」この〇〇について語るが〜1話を使って延々と繰り返されて「誰もが神について語るが頭の中はSEXと食い物の事だけ、誰もが政治について語るが頭の中はSEXと食い物の事だけ、誰もが芸術について語るが頭の中はSEXと食い物の事だけ‥」

このハゲタカの僧侶に確かナチス軍を脱走した狼と犬の混血の将校が弟子入りした辺りからよりスピリチュアルな方向に哲学的な内容になって行って、
ウルフ大佐が地獄の幻影に苦しめられたり、その異常性がどんどんエスカレートするようになり(突然女装して「ランランラ〜ン♪」と花畑で花を摘んだり、豚の少女[『愛の嵐』のルチアの格好をしてる、のち殺され食われる]を相手にSMプレイ[マゾ役]したり)
更に後半では戦争や現実の状況の重要性が薄まっていきスピリチュアルな世界に突入して、死後の世界や地獄をウルフ大佐が見たりラブリンが神の声を聞いたりするのですが
ウルフ大佐とラブリンによる神・宇宙・哲学的な問答が延々と続いたりナチス支配下の世界、ファシズムと民主主義が描かれたかと思えば宗教や哲学、物質世界から精神世界への移行、霊的・神秘思想や魂の開放・解脱、得もすればカルト宗教の教祖の様になってウルフ大佐を導こうとする空中浮遊してチャクラを開眼するラブリン(オウム真理教のテロはこの2年後)完全に収拾がつかなくなり、おそらく有害コミック騒動が無くても完結する事はなかったと思うのですがとにかく凄い漫画で絶版で現在読めないのが残念です。

このウルフ大佐がまた強烈なキャラクターで「満月の夜吾輩は勃起する!」の決め台詞と共に殺戮・凌辱・悪逆の限りを尽くし、後半では完全に主役の座を乗っ取り殆どのキャラクターを殺してしまい、最後はチンピラーノにあっけなく殺され連合軍の爆撃が始まった所で連載は終了してしまいます(長い前置き終わり)

ラブリン・モンローは「残酷版ディズニー」とも言える漫画で本家ディズニーではいくら何でもこんな酷い(描写が)内容のアニメを作ることは到底出来ないだろうと思っていましたが約20年後、まさかディズニーでラブリン・モンローに匹敵する動物=人種とその差別、動物擬人化アニメでファンタジーではなく現実の世界の問題や残酷さを描いたアニメが作られるとは驚きました。

実を言いますと『闇の王子ディズニー』
を読んで以来ウォルト・ディズニーが大嫌いで(笑)ディズニーアニメは最近アナ雪を奥さんの付き合いで見た以外、ちゃんと見た記憶がなく自分の意思で映画館に見に行ったのは生まれて初めてだったのでした(pixerのアニメ除く)

ナチス支配下のフランスから現代のアメリカに舞台は移っていますがテーマとしているモノは全くといい程共通していて、ズートピアは支配×被支配と言う構図から更に進んで、多民族国家アメリカが抱える複雑な問題、差別・貧困・格差社会、人種や性別や宗教による差別を草食・肉食や動物の種類に形を変えて、建て前では自由の国を謳いながら実際にはインドのカースト制度に近い様な社会のアメリカの酷い現実、でもそれに屈する事なくあらゆる障害や人々の無理解、己のコンプレックスを克服し夢に向かって挑み続けるジュディの姿に観客は感動するし応援するのでしょうし、昔話で狼と並び悪役、ズル賢い嫌われ役と言うキャラクターである「キツネ」のニックが主人公のパートナーとして劇中でも差別や偏見にさらされながら、それらを自らの意思と行動によって跳ね返して見せるのは、昔からある謂れのない差別・習慣や思い込みや下らない決め付けに対して、そんな物はハッキリと間違っていると宣言する事「人は変われるし世界も変えられる」と言うメッセージ何でしょう。

ウサギの刑事ジュディとキツネの詐欺師ニックのバディムービーでもあり刑事と犯罪者のコンビが巨悪に挑むのはまさに『48時間』ですし、2人は仲間であり友情で結ばれて恋愛が絡まないのも良いです。

ディズニーアニメはほぼ初体験だったのですがズートピアはディズニーアニメの中でも非常に良く出来ているとのレビューと同時に特殊?な部類に入る作品だったみたいですが大ヒットしたので、これからもこんな社会的なテーマの作品は作られていくのでしょうね。

やっぱりディズニーはその時代時代に合わせて常にアップデートを重ねて進化していると言うか、ズートピアで人種その他差別の問題を描いたのですから次はもっと深刻なテーマ、政治や戦争を問題提起すると同時にエンターテインメントとしてアニメで見せる事が出来たら凄いと思うのですが。
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