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影の車のhjktkujのレビュー・感想・評価

影の車(1970年製作の映画)
5.0
傑作である。原作松本清張・製作三嶋与四治・監督野村芳太郎・脚本橋本忍・撮影川又昂・音楽芥川也寸志・主演加藤剛といえば、砂の器(1974年)という不朽の名作を放ったチームだが、同じチームで4年前に作ったのがこの作品である。「少年であっても殺意を抱いて殺害行動をとることはある」というのが主題のサスペンスドラマである。加藤剛には、子供のころ、母と関係を持った「おじ」を、母を奪った男として嫌悪し殺害したという過去がある。倦怠期を迎えた加藤剛は昔なじみの岩下志麻と偶然再会し男女の関係になるが、岩下志麻には6歳の息子健一がおり、自分がかつての母と関係を持った「おじ」と同様の立場であることに気付く。「疑えば目に鬼を見る」ということわざ通り、現実が実体験のデジャヴと化し、とうとう健一の首を絞めてしまう。芦田伸介演じる刑事の取り調べで加藤剛を断罪する内容がこの映画のストーリーをうまく説明しているのだが、それは見かけ上であって、健一の、母を奪った男への不満は描かれてはいるがはたして殺意があったかどうかまでは全く描かれないままなのだ。刑事は「頑是ない子供に殺意などない」という一点張りで、健一が殺そうとしたという加藤剛の供述を信じない。加藤剛はついにかつて「おじ」を殺したことを供述してしまう。健一は何事もなかったかのように加藤剛が居なくなり以前の日常に戻ったところで映画は終わる。果たして健一に殺意はなかったのか、加藤剛の単なる被害妄想だったのかは明らかにされないまま余韻を残して映画は終わるのである。映画を見終わった観客は否が応でもここに視点を置かされるという、まさに橋本忍の面目躍如たるものがある。あなたは同じ状況に置かれたらどういう対応をとるのですかと映画は問うているのである。回想シーンの映像美、美しい音楽、テンポのいい演出、加藤剛・岩下志麻の美しさ、一級品の映画とはこういう映画を言う。
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