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ナイトクローラーのEpiのレビュー・感想・評価

ナイトクローラー(2014年製作の映画)
4.5
予告編では、『ニュースの天才』の虚偽記事ものや、いわゆる"やらせ"をネタにした記者・カメラマンの映画だろうと思い、あまり興味をそそられなかった。
もう、何回、同じようなネタを使い回しするんだ、ってね。

ただ、評判がすごくいいので、観てみたのだけど…いや、アッパレな作品。
最初あまり期待せず、観たらすんごかった!という点では『イコライザー』級かも。

なにがすごいって、やっぱり、ジェイク・ギレンホール演ずるフリーのカメラマン、ルイス・ブルームのキャラクター。

よくあるピカレスクロマンものや記者ものと同じようにどんどん成長していくんでしょ、ベテランになっていくんでしょ、そんでモラルとかが緩んできて狂ってくるんでしょ、ハイハイ…と思って観てたのだけど…この主人公は、徹底して、しょっぱなからずっと、おかしい、というか半分狂っている。

失業中のコソ泥が、たまたまみかけたトップ屋のやりかたを真似して一瞬成功というところまでは常道。ところが彼の口から出てくるのは、ネットで知り得た自己啓発的な言葉の羅列と、一見合理的な説明だけれど、彼だけしかわからない意味と目的。

ひたすら大事故や「郊外の白人が被害者」のショッキングなニュースを追い続け、成功を重ね、ノウハウを身に着け機材をそろえ、車を新調し、それでも、ニュースを追い続ける。
取材の中で、警察より早く現場に着き、ときに恣意的な"やらせ"さえ当たり前のようにし、全てを通報せず、目の前で事件が起きるように仕組む。同業のライバルの車には細工までして…。

そこには当たり前のように取材の「モラル」も「ポリシー」もない。そんな酷い「取材」を繰り広げながら、一種の"怪物"のように思いながら、我々は、自分の中に、どうしようもなく惹かれていく部分を見つける。そしておおっぴらに言えないけれど、ちょっぴりに彼の活躍を応援するようになる。

こんな異常な性格で、他人と親しく交わろうともせず、仕事仲間さえ利用し、裏切ろうとする人間にどうしてちょっとでも共感や応援を感じるのか。
それは、彼が、どんなに異常に見えようが、まったくのゼロから出発し、「自分で」リスクをとって運転し、「自分で」最前線に突っ込んでいって取材し、ときに失敗しながら、それでも奮闘して成功を勝ち取ろうとするから。
その突貫精神とも狂気ともいえる彼の衝動や経験は、我々が、大なり小なり、自らの仕事や人生で経験した失敗やほんのわずかな成功と重なるからだろう。

だからこそ、ルイスは、レネ・ルッソ演ずる年上の女ディレクター、最初はニュースの最前線ににいるように見えて、実はしがない深夜の地方ニュースの2年契約の雇われディレクターと個人的な関係を結びたがるのだ、ともいえるかもしれない。自らの力で、指一本で必死に成功を掴もうとしているその姿勢に。
その点で、同じ底辺出身なのに、全く進歩せず、文句ばかり多く要求がエスカレートしていく相棒を、ルイスが愛想をつかすのは、とても腑に落ちる。(もちろん、解決方法はとんでもないものだが!)

このあたり、ディヴィッド・フィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』の後半、努力して成功を重ねようともがく主人公と、現状を肯定し落ち着いて文句を重ねる仲間、という対比に通じるところを感じた。

そう。この作品がすごいのは単なるパパラッチの姿を描きながら、全体で、アメリカ批判・文明批判にも伸びていく点だと思う。
報道倫理って?職業倫理って??善ってナニ???

他にも、女ディレクター役のレネ・ルッソの落ちぶれてながらも、海千山千の感じの崩れた色気はさすがだし、リズ・アーメッドのダメダメな相棒の感じは実に見事。リアリティのあるカーチェイスシーンは、ドキュメンタリーチックでほんとうに素晴らしかった。

物事の「余裕」がなくなり、倫理観の在り処があやふやになり、「成功する」ことが至上命題のようになった現代にこそ、出現した映画な気がする。

これが初監督作品なんて!次回作が楽しみな監督がまた現れた。
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