OASIS

ボーダレス ぼくの船の国境線/ゼロ地帯の子どもたちのOASISのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

紛争が続く国境沿いの立入禁止区域内に棄てられた船の中で暮らす少年を描いた映画。
監督は本作が監督デビュー作となるアミルホセイン・アスガリ。

海に潜り、貝殻を集めて装飾品を作り、魚を釣り上げ、捌き、それらを売って暮らしている少年。
国境地点にポツンと佇む巨大な朽ちた船の中で、部品を組み立て、寝床を作り、寝泊まりをする。
そんな良い物では無いが、自分だけの秘密基地をせっせと作っているような冒険的感覚が呼び起こされる。
その模様を淡々と見せ続けるオープニングは全く台詞が無いが、少年の生命力溢れる生き延びようとする姿を見ているだけで引き込まれてしまう、サイレント映画としても素晴らしい完成度だった。

ある日、船に少年兵らしき男の子がやって来る。
慎ましい暮らしを脅かそうとする侵入者の出現に敵対心を抱く少年だが、それは相手も同様で、敵かもしれない見知らぬ人間に易々と心を許すはずも無く緊張感を伴いながら一定の距離を保ち続ける。
青いペンキを塗り境界線を作るが少年兵は御構い無しに振る舞い、我が物顔で船内を跋扈する。
そんな中、赤ん坊を連れた女の子やアメリカ兵もやって来て...。
生まれた環境も違い言葉も通じない4人が一つの空間で生活するという異質さは、ある種の代理戦争的な様相を呈していた。

それぞれの町に国境線や防護柵はあれど、船の中は争い事とは無関係のボーダレス。
けれどもあっちの岸では銃撃戦が繰り広げられ、こっちの岸では爆発音が鳴り止まない。
安全地帯かのように見えて、いつそれらが船の中にまで侵食して来るか分からないジリジリと追い詰められる恐怖。
そんな恐怖が見ず知らずの4人の想いを一つにしたのか。
オープニングと同様に、船に集まる人数が増えてもお互い言葉が分からないので口数が少なくなり、結果的に戦争映画らしからぬ静けさが辺りには漂っていた。

戦争が結び付けたと言っても過言ではない4人の関係性は、同じく戦争によって分かたれる。
国も言葉も、性別も年齢も異なる人々の間で、何か一つの物や思想を巡って諍いが起きる時、それは争いの始まりであって綺麗な状態に収まる事はないだろうという虚しさを感じる作品だった。
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