荒野の狼

ミルカの荒野の狼のレビュー・感想・評価

ミルカ(2013年製作の映画)
5.0
2013年のインド映画で原題は、Bhaag Milkha Bhaag (走れ、ミルカ、走れ)。冒頭はインドの陸上選手ミルカ・シンが、1960年のローマオリンピックで優勝候補でありながら4位に終わったシーンから始まる。ここからミルカの回想が元コーチの語りという形で織り込まれていく。
ミルカは1935年にインド・パンジャーブ地方の ムザファルガルMuzaffargarh生まれであるが、同地がパキスタン領となったため、1947年に11歳でインドに移住。この間に家族が殺戮されるなど、インドとパキスタンの不幸な歴史が描かれる。ミルカは、不良少年に一団に入り生き延びるのだが、この時に流れるエレキギターで
をバックに、心の叫びのような応援歌とも言える音楽が流れるのだが、詩の内容ともによい。
「生きていくなら 目いっぱいいきろ。 石炭は真黒 砕かれて一人前。中も外も真黒 それが本物。夢が足にまとわりつく そんなもの引きはがせ。過去も未来も関係ない。今咲いている花に水をやれ。」
この歌をバックに少年ミルカが走る列車の屋根を車両から車両へ飛び越えながら、子役から青年(演じるはファルハーン・アクタル Farhan Akhtar)に変化するのだが、このシーンも実にいい。ミルカは美しいビーロー(演ソーナム・カプール Sonam Kapoor)に恋をし、定職を得るため軍隊に入隊し、そこで陸上競技に出会う。ミルカが陸上選手として成功し、インド代表選手のジャケットを着て姉のディヴィヤ・ダッタDivya Duttaに再会するシーンは感動的で、ダッタは本作では優しい姉を好演。
ミルカを演じるアクタルは写真でみるかぎり本物そっくりな風貌。ミルカが1956年のメルボリンオリンピックの後に、400メートルの世界記録に挑戦しようと決意をして、コーチと砂漠でトレーニングをするシーンでは急角度の坂道を駆け上がり、コーチをして「何て選手だ」と驚嘆させる。このときに流れる音楽は詩がよい。
「お前の足裏には蹄鉄がある。 どんな時でもやり遂げろ。走れミルカ ミルカ目覚めよ 炎となれ」
この後に、縄跳びでトレーニングをしながら、上半身が見事に短距離走者らしくビルドアップされていくのだが、これはアクタルの役作りのトレーニングのたまもの。
パキスタンはミルカの家族を虐殺した悪役扱いではあるが、ラストでパキスタン大領領アユーブ・ハーンのミルカに対する次のセリフは好意的「今日から世界は君を“空飛ぶシク”と呼ぶだろう。パキスタンは謹んで、この称号を君に進呈する」。
なお、ミルカは1964年の東京オリンピックにも出場しているが、映画は1960年のインドとパキスタンの陸上競技会で終わっている。
以下は映画のラストに出されるミルカのメッセージ
Hard work, willpower and dedication. For a person with these qualities, the sky is the limit. Milkha Singh 勤勉さと強い意志と献身を備えた人は高みに昇れる。ミルカ・シン
荒野の狼

荒野の狼