荒野の狼

伊豆の踊子の荒野の狼のレビュー・感想・評価

伊豆の踊子(1963年製作の映画)
5.0
2024年のゴールデンウィークに、伊豆に旅行する機会があり、伊豆の踊子ゆかりの地である「伊豆の踊子の宿 福田家」や、踊子の像のある浄蓮の滝、ラストの舞台となる下田港などをまわった。ゴールデンウィークであるにも関わらず、人混みは少なく、「伊豆の踊子」の映画化も山口百恵以来なくなってしまい、観光資源として、今後が少し心配になったものである。本作は、今回5年ぶりに再見したが、伊豆を訪問していると、つづら折りの道であるとか、川、山、滝の雰囲気や、天城峠から下田までの土地勘が身についており、映画はより楽しめた。

川端康成の「伊豆の踊子」は何度も映画化されており、私はこれまでそのいくつかは見ていたのであるが、本作は2019年まで未見であった。それというのも初めてのカラー作品ではなく、また特に大きな映画賞を受賞していないため鑑賞するモチベーションがなかったからである。ところが、川端康成の展覧会およびその図録(「巨匠の眼-川端康成と東山魁夷」、アマゾンなどで入手可能)で、川端康成がわざわざロケ地まで出向いて吉永小百合と撮った写真を見て興味が湧いた。川端自身の写真というと、どんな美女と写っても笑顔すら見せないものばかりなのであるが、吉永と写った川端はデレデレなのである。川端の写真というと神経質そうな緊張感のあるものばかりで自殺してしまったことなどを考えるとストイックで辛いだけの人生だったのかなと思わせるものがある。ところが吉永との笑顔の写真を見ると、川端が心から喜んでいる様子でホッとするものがある(川端と吉永の写真は「巨匠の眼-川端康成と東山魁夷」のp190に掲載されているが、川端が美空ひばりp189や、内藤洋子p191と撮影した写真と比べると、川端の表情の違いは歴然)。「巨匠の眼-川端康成と東山魁夷」によると、「川端康成は、しばしば(伊豆の踊子の映画)のロケ地を訪ねた。吉永小百合が主演した時など、隣に座りこんで長々と話しかけ、撮影は完全にストップした。無愛想で通る川端だが、その顔はとろけんばかりだ。p413」とある。

本作の公開時(1963年)、吉永は18歳くらいであるから、踊子の16歳という設定にはあっている。踊っている姿は美少女の日本人形がそのまま動いているような可憐さ。ちなみに、この時点で吉永は映画の主役を数多くこなしており、歌手としても前年に「いつでも夢を」でレコード大賞を受賞している。本作では、まず吉永の歌う主題歌が映画のタイトルバックで聞くことができ、これはとても10代の少女が歌ったレベルをはるかに超えた落ち着きぶり。本作のセリフも、吉永の声は低く落ち着いており、これが少女らしさという点ではマイナスになってしまっているという贅沢な悩みとなった感はある。

本作は現代を白黒で、過去をカラーで見せるユニークな手法をとっているが、予告編では現代の場面も予告用にオリジナルに収録されたカラー映像である。こちらも短いが中々よいので押さえておきたいところ。
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