荒野の狼

モーターサイクル・ダイアリーズの荒野の狼のレビュー・感想・評価

4.0
「モーターサイクル・ダイアリーズ」は、2004年公開のチェ・ゲバラの青年期を描いた映画。医学生であったチェ・ゲバラが故郷のアルゼンチンから、オートバイで、チリ、ペルー、ベネズエラと北上していきながら、様々な人々と出会って人間的な成長を遂げていく。私はDVDに付属していたゲバラの旅程が書かれている南米の地図を見ながら本作を鑑賞したが、国や地名の距離感などがわかるので、地図を見ながらの鑑賞がおススメで、映画では旅の前半をじっくりと描き、後半は駆け足であることがわかる。このためか、映画の大半はゲバラが精神的に未熟な青年であり、スローペースな印象は否めない。ゲバラが人間的な成長を見せ始めるのが、鉱山での共産主義者の夫婦との出会いであるが、本作が物語として展開を見せ、ひとつの筋の通ったドラマが見られるのはハンセン病の療養所で働き始める最終盤。
療養所での送別会でゲバラが次のように語るシーンには、ゲバラの理想がある。
日本語字幕「無意味な国籍により国が分かれていますが南米大陸は1つの混血民族で形成されているのです。ゆえに偏狭な地方主義を捨てて、ペルーと統一された南米大陸に乾杯しましょう。」
英語字幕 “The division of America into unstable and illusory nations is a complete fiction. We are one single mestizo(スペイン人とインディオの混血、メスティーソ) race from Mexico to the Magellan straits(マゼラン海峡). And so, in an attempt to free ourselves from narrow minded provincialism, I propose a toast to Peru and to a United America.”
このスピーチの後に、ゲバラはハンセン病患者を隔離している川を泳いで渡り対岸のハンセン病患者たちのエリアに到達する。ここでは南米をひとつにという思想から、さらに一歩進んで、あらゆる差異を乗り越えて、世界のすべて人が差別なく共生する社会という究極の理想が見える。
ハンセン病患者の治療をきっかけに、患者を治療すること以上に、まず優先してやるべきこととして、社会の改革(革命)の道を進んだチェ・ゲバラの人生は、アフガニスタンで殺害された中村哲医師に似ている。中村医師もパキスタンでハンセン病の医療活動に従事し、後にアフガニスタンで用水路を作るなど医療活動以外のことに従事し、同地を爆撃するアメリカに憤りを感じていた。国の隔てなく、利他に生き、医療にこだわらず、アメリカの帝国主義的軍事活動に反対した医師であり、志半ばで殺害されたと言う点など二人には共通点が多い。
DVDの映像特典には未公開シーンが含まれ、旅に同行した親友のアルベルトの誕生日に関するシーンが含まれている。このシーンは本編ではカットされているので、ラスト近くのゲバラとアルベルトの誕生日に関する会話の意味は、視聴者にはわからなくなってしまっている。
本作では、ゲバラが革命戦士になるところまでは描かれないが、映像特典のロバート・レッドフォードのインタビューで語られているように、“(ゲバラは)「民衆の心の医者になるから医療は行わない」と言って病院をあとにして旅立った。
荒野の狼

荒野の狼