あくとる

ブラックパンサーのあくとるのネタバレレビュー・内容・結末

ブラックパンサー(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

公開初日、その一週間後、そして上映終了ギリギリの計三回観賞。
MCUで最も好きな作品になりました。

・一言でこの映画を表すなら、『マーベル版007スカイフォール』だと思います。主人公が今まで正義であると信じて慕ってきた者(この映画では父親である前王ティチャカであり、ワカンダという国そのもの)が行ってきたことの負の側面を知って、その信条が揺らぎ、苦悩の末に一度死にます。そして甦り、自分のアイデンティティに目覚めるのです。自分の影となる存在と対峙するというとてもクラシカルな構造をベースにし、黒人と差別の歴史、指導者の苦悩、忠誠とは何か?、などなどたくさんのテーマが込められており、重厚なヒューマンドラマになっています。

・この映画はブラックパンサーの成長譚として良くできていますが、見た人の心に強く残るのはヴィランであるキルモンガーではないでしょうか。この映画は故郷に見捨てられた彼とその父親の物語でもあります。彼や父親の思想は過激ではありますが、苦しめられている同胞を救おうという思いが根底にはあり、恵まれた資源を持ちながらもその状況を傍観し続けることで平穏を保ってきたワカンダの功罪を的確に突いてきます。大人になった彼の前に亡き父親が現れるシーンはマイケル・B・ジョーダンの胸を打つ演技によって、この映画の白眉と言えるシーンになっています。彼の生い立ちを考えると思わず同情してしまうキャラなのですが、彼がヴィランとしてぶれないのは圧倒的な残虐性が描かれているからです。彼が今まで殺した人数を刻んだスカリフィケーションの禍々しさ、敵どころか愛する人ですら躊躇無く殺すあのスピード感が素晴らしい。

・脇役も魅力的なキャラが揃っていました。男顔負けの最強女戦士オコエ、優秀な科学者でありながらキュートなコメディリリーフでもある妹のシュリ、そしてまだ未熟なティチャラを支える芯の強い女性ナキアのワカンダガールズ。アンディ・サーキスが珍しく生身のままノリノリで演じている真性のくず、ユリシーズ・クロウ。ツンデレゴリラのエムバク。

・アフロフューチャリズムなヴィジュアルであったり、民族的打楽器アンサンブルや最新のトラップを取り入れた音楽も最高でガン上がり。あの砂のような粒子をモチーフとしたテクノロジーが新鮮で良かったです。

・序盤にチラッと出てきたサイがラストバトルでボーダー族の最終兵器として活躍したり、地下鉄道のあの装置がラストの一騎討ちで活かされたりと思わず唸らされる伏線の数々。良くできているし、真面目に作られているという印象を受けました。

・ヒーロー映画お決まりのアクションも満載です。オープニングの暗闇でのファイト。儀式でのタイマンバトル。カジノでのワンカット長回し風バトル、そこからのカーチェイス(ここでBGMとして流れるケンドリック・ラマーのOppsは歌詞も合っていて最高)。ラストの民族大戦争。バラエティーに富んだアクションが詰め込まれていて大満足でした。

・オープニングと呼応する素晴らしいエンディング。そして、映画を見終わるとわかる『オープニングでワカンダのことを語る男』と『その話を聞いている子供』は一体誰だったのか。
二度目見たときはオープニングの時点で涙が…