OASIS

プリデスティネーションのOASISのレビュー・感想・評価

プリデスティネーション(2014年製作の映画)
4.0
時間と場所を自在に移動できる政府のエージェントが、連続爆弾魔を追うためタイムトラベルを繰り返すというロバート・A・ハインラインによる短編小説「輪廻の蛇」の映画化。
監督は「デイブレイカー」のピーター&マイケル・スピエリッグ兄弟。

「鶏が先か卵か先か」
「親殺しのパラドクス」
「俺は俺のおじいちゃん」
これらの言葉の中で一つでもピンと来てときめいたものがあるなら、今すぐ観て頂戴と言うしか無い。
ネタバレボタンを押してしまいたいが、より多くの人に見てもらえるようにあえて押さずかなりフワッとした感想でお送りする。
個人的にタイムパラドックスものが大好物というのもあるし、もともとの原作が既に面白いのだろうという点を差し置いても、張った伏線を97分以内にきっちり収めて纏めている辺り相当良く出来ているなぁと思った。
その手際に舌を巻く。

1975年、爆弾魔を追うエージェントが任務に失敗し新たな顔を移植されるという冒頭から、タイトル後には舞台は1970年のニューヨークの小さな酒場へと移る。
そして、バーテンダー(イーサン・ホーク)の元へやって来た青年がある男によって狂わされた半生を語り出す、という前半部分が妙に長ったらしくて回想→会話という流れが延々と続くので退屈気味になってくる。
正直この語りの部分が長過ぎるし、爆弾魔の追跡という目的が隅に追いやられていて話が進まず、こじんまりとした映画に見えて完全に舐め切っていた。

ただ後半になって来ると、アレも繋がって更にコレも繋がって...と一つの輪が形成されて行くのと同時に、バイオリンケース型のタイムマシンという渋格好良いガジェットで目まぐるしく時代を行き来するようなSF映画へと変貌する。
タイムスリップ描写としてはめちゃくちゃ地味でいかにも低予算な感じは否めないのだが、舞台が70年・80年代という原作の設定からしたらそうなるのは必然であると思う。
これが現在ならそれはもうド派手なエフェクトを付けてスタイリッシュな映像に仕上げるのだろうが、そうなるとこの作品の肝であるアナログ的でノスタルジックな世界観を壊してしまう事になる。

とりわけ素晴らしいのは俳優陣。
主役はもちろんイーサンホークなのだが、同時にサラ・スヌークという女優でもある。
時にエマ・ストーンに見えたり、時にレオナルド・ディカプリオに見えたりと(若干ネタバレ?)、難しい役どころを見事に演じていた。
登場人物が少ないという点で前半から既にある程度のネタは予想出来そうな感じではあるが(実際かなり分かり易い)、そこは別に重要では無いのはもちろんである。
分かり易いには分かり易いが、後半になって来ると青年の回想に出てくる謎の男や赤ちゃんを盗んだ犯人、脇道に沿れていたと思われた爆弾魔の正体やタイムマシンの秘密などが明かされ、微妙にそれまでの予測が違っていて頭の中で描いていた筋立てがズレる感覚と合わせて、一気に大量の情報量が押し寄せて来て脳が痺れるようなえもいわれぬ快感を味わえるのが堪らなかった。
ご丁寧にフラッシュバックによる説明まで付いているのは逆に親切過ぎた気もしたが「あ、あの人まで繋がってるんだ?」と構成の巧みさと焦らしっぷりには思わず唸った。

激オシしてはいるものの、自分でも微細な部分まで詳細に理解出来ているとは言い切れない。
観終わった後また直ぐに最初から観たくなる作品は久々だった。
「輪廻の蛇」というタイトルが表す通り、相手の背中を追っているつもりが自分が追われていたという、グルグルと廻る運命に翻弄される一人ないし二人の愛の物語だと理解した。
そうすると前半部分の退屈に思えるやりとりも、儚くて美しく、そして身震いして来るようなものに見えてくるのではないだろうか。

映画を観た後に原作を読んだのだが、原作は20ページ少しの短編でありしかも爆弾魔も出て来ない。
あの話から良くここまで膨らませられたなと思わざるをえないし、オリジナルキャラクターである爆弾魔が設定&ストーリーの核心の部分まで全く違和感無く溶け込んでいて驚愕の一言だった。

@梅田ブルク7
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