一人旅

スポットライト 世紀のスクープの一人旅のレビュー・感想・評価

5.0
第88回アカデミー賞作品賞。
トム・マッカーシー監督作。

カトリック神父による児童への性的虐待の全貌を暴くため奔走するボストン・グローブ紙の記者たちの姿を描いたドラマ。

事実を基にした正真正銘の社会派ドラマで、カトリック神父による児童虐待の真相と、それを隠蔽しようとする教会上層部の腐敗を、緊張と説得力に満ちた演出で描き出した傑作。教会という閉鎖的な巨大組織に、正義とジャーナリズムの精神が果敢に切り込んでいくさまは力強く、“お仕事映画”としてのプロフェッショナルなかっこよさにも満ちている。

驚きなのが、教会の隠蔽体質。事件が発覚することを恐れ、罪を犯した神父を別の教区へ頻繁に異動させることで真実を葬り去ろうとする。虐待の被害者に対しては、弁護士を通じた示談で金を握らせることで納得させる。事件の真相を暴こうとする人間に対して圧力をかけ黙らせ、また、証拠の文書を秘密裏に処分するなどして、徹底的に教会の権威保持を図る。
信仰は地域住民の精神的支柱であり、それを正しく教え導いていくことが教会と聖職者本来の役割。だが、教会は、教会に対する信者の絶対的信頼と潜在的服従心を悪用して組織的に隠蔽する。神父による児童への性的虐待という許されない行為と、それを隠蔽する教会の大いなる欺瞞が浮き彫りにされる。
「教会の巨大権力」対「少数精鋭の記者部隊」の構図はいかにも社会派らしいものだが、闇に葬り去られていた真実が記者たちの地道な調査の蓄積により次々と明らかにされていくさまは臨場感たっぷり。社会派と銘打っているのにクライマックスになると銃が出てくる、良くある社会派“風”映画とは異なり、地味で地道な調査模様が終始に渡って描き出される本作は、触れてはならない教会の禁忌に真っ向から挑んだ本格社会派映画としての魅力が詰まっている。

キャスティングも絶品。近年絶好調のマイケル・キートンのいぶし銀の演技が印象的なのだが、キートンの記者仲間の一人を演じたマーク・ラファロの演技が一等賞。焦る・走る・怒鳴るの三拍子揃った熱演を魅せ、特に、記事の掲載を渋る記者たちに対して熱のこもった訴えをする姿は真に迫る。紅一点のレイチェル・マクアダムスの颯爽とした演技も魅力的。また、新局長に扮したリーヴ・シュレイバーの冷静沈着な演技も印象的で、ユダヤ系という第三者の立場から、神父による児童虐待事件に対する関心を記者たちに与える役割を果たす。
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