暮色涼風

不正義の果ての暮色涼風のレビュー・感想・評価

不正義の果て(2013年製作の映画)
4.2
これで漸く『SHOAH ショア』が観終わった。
というのも、この作品の大部分の素材もまた『ソビブル、1943年10月14日午後4時』と同様、『SHOAH ショア』のために撮られたものだからである。
しかしインタビューの雰囲気は、確かに『SHOAH ショア』のそれとは違うため、異なる作品として完成させたのは納得の判断だ。

インタビューを受けるのは、ユダヤ人の裏切り者のレッテルを貼られたナチスの操り人形、テレージエンシュタット強制収容所のユダヤ人評議会最後の長老ベンヤミン・ムルメルシュタイン。
世間から批判を浴びている彼が、その不正義の果てに何を求めていたのかを明らかにする。

ムルメルシュタインは裁判で無罪とされるが、自ら有罪であると責任の認識をしている。
それでも「ゲットーを守ることは、私を守ること」であったと言う。彼の生き残るための権力欲を否定はできないが、それは仕方のないことのように思う。
むしろ、選ぶこともできた安全圏への移住もせず、欺瞞だらけのプロパガンダ用ゲットーであるテレージエンシュタットに残り、彼が街の美化に努めたおかげで、シラミやチフスの難から救い、老人ホームを用意でき、自由時間をも与えることができ、結果的にムルメルシュタインの操作は多くのユダヤ人の助けになっていた。
最不幸中のわずかな幸いである。
「操り人形が糸を引く」とは、完璧な例えだった。



ホロコースト記念博物館のお蔵入り研究資料になりかけた、このムルメルシュタインへのインタビュー映像。
その貴重な映像素材への博物館の扱いに憤慨したランズマン監督が、映画として完成させ世に送り出したことで、自分のような世間知らずの日本の若者でもちょっと財布のヒモを緩めれば鑑賞できることが有り難い、有り難い。

まだフィルマークスに登録されていないランズマン監督の過去作品、『なぜイスラエルか』『ツァハル(イスラエル国防軍)』『生者の世界からの訪問者』『光と影』『カルスキ・レポート』の5タイトルも、是非日本で劇場公開して欲しい。
暮色涼風

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