ちろる

怒りのちろるのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
4.6
誰にも言えない悲しみと、ぶつけようのない切なさと後半は言いようのない苦しさでずっと涙が止まらなかった。

この映画のタイトルでもある「怒り」についてはいろんな解釈があるけれど、相手を信じたいのに100%人を信じられない自分への怒り。そして逆に信じすぎてしまったことへの怒り。

世間に蓋をされて社会の片隅に生きた人々のぶつけようのない怒りとか、そしてそれらを見てみないふりをしてきた偽善者な自分への怒りとか。沢山の目に見えない人間の怒りが今も私たちの周りに渦巻いていて、苦しくてやるせない世の中の実情が描かれている。

一言でなんか言い表せない混沌とした怒りがこの作品全体ぶつけられていて、それを受け取った私は無性に叫びたくなった。

吉田修一さんが描くのは社会の片隅に生きながら見てみないふりをされたマイノリティーの存在で、その人たちのことちゃんと私たちに見せようとするのが李相日監督。
そして、それを見せられて身動き取れないようなショックを与えてくれるのが役者達の圧巻の演技なわけで、、
特に今回は妻夫木聡さんの演技がとんでもなく良かった。彼を同性愛者だと信じるレベルで上手い。すごい!

この作品は原作が上下巻あって、3つのストーリー分の重さがあるのにもかかわらず、ちゃんと脚本も破綻することなく、1つの作品としてまとめられ、非常に安定感のある脚本力と編集力もすごいと感じます。
そして坂本龍一さんのオリジナルのオーケストラ音楽も素晴らしく、この作品をちゃんと大きなスクリーンで観れて良かった。

人それぞれなので賛否両論あるのは仕方ないけれど、レビューの点数が低いからってもし観ないでいる人がいたらわたしはもったいないと思う。
とっても苦しくなるし、綺麗事にできない作品だけど、一流たちがちゃんと一流として魂の仕事をしている作品だと私は思う。
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