このレビューはネタバレを含みます
杉原千畝がとにかくヴィザを出し続ける話かと思っていたが、正確には彼の眼を通して描かれる第二次世界大戦の話だった。
前半はかなり飛ばし気味。満州での千畝の活躍により、ソ連から睨まれることになってしまった話を端的に描き、その後の日本に帰ってから奥さんとの出会い、結婚までをダイジェストでまとめるという端折りっぷり。ただそんな場面を長々とされてもつまらないので、逆に良くまとめたと言いたい。
中盤、彼がヴィザを発給した地、リトアニアに行ってから話が展開し始める。ユダヤ人の難民の存在を知り、彼らを助けたいと葛藤する千畝。
最終的には半ば本国をだますような形でヴィザの発給を行う。
しかし、そこからがなあ・・・
残念ながら自分には先入観があった。大昔に見た、同じく杉原千畝を題材にした映画(気になって調べてみたら、終戦60年ドラマスペシャル「日本のシンドラー 杉原千畝物語 命のビザ」というものだった)が未だに心に焼き付いており、そちらは本作よりももっと必死に命を救おうと頑張っていた。
本作では駅舎でヴィザを発給できるだけした後、ついてきてくれた職員と固い握手を交わし、その後に列車に乗り込む。少しばかり話をしたあと、ようやく列車が動く。
「命のビザ」の方では、もはや走り書きに近い状態になりながらも列車が発進してもなお発給し続けていた。
この「先入観」のせいで、「オマエずいぶんと余裕じゃねーか!もっと書けただろオイ!」と思わざるを得なかった・・・
そこから先は戦争の話。次に行った国でスパイのような諜報活動を行い、それが原因で再び睨まれてルーマニアに飛ばされる、そしてそこで日本の敗戦を知る・・・
なんというか、フォーカスがどこに向いてるのかわからない映画だった。
ヴィザの発給を続けた千畝すごい!なのか
スパイ活動してた千畝かっこいい!なのか
迫害されたユダヤ人がかわいそう!なのか
こんなことをする戦争は良くない!なのか
もちろんその全ては言ってることとしては正しいし、伝えたいポイントだったのだろう。
でも手広く広げすぎて全体が薄くなってしまってる。
前半の千畝と奥さんの出会いから結婚という、今作ではどうでもいい部分をガッツリ端折ったのだから、この辺ももっと見せたい部分を選別しても良かったのではないか。
振り返るとこの映画には重要なツールがあった。「子供」だ。
千畝は領事館の外にいる子供達をよく見ていたし、中継地のソ連まで亡命できたユダヤ人が足止めを食らった時、船を出す権限がある人たちが「どうにかして救いたい」と思ったのも、子供に見つめられたからだった。
ただそれ以上に、大事な事、伝えたい事は子供を通してメッセージを送ってきていた。
印象に残って老いる場面がある。千畝がヴィザ発給を決める前、領事館の前には淡い希望を抱き、またここ以外に行く当てのないユダヤ人の人だかりができていた。そんな彼らを前に、領事館内で「普通に」軽食をとる職員達。母親も職員と歓談している。
外は空腹でもヴィザの発給を待ち続けている人達がいるのに、それに慣れてしまっているのか、何も思わないのか・・・
千畝の子供だけが、その違和感に気づいていて、だからこそ外にいるユダヤ人の子供にサンドイッチを差し出した。
彼らは気づいていたのだ。外にいる人、中にいる人、そこには何の違いがない事を。自分たちと同じだという事を。
その証拠に、最後の最後、千畝の子供が言った言葉がある。
「ねえお父さん、次はどこに行くの?」
「何処へ行きたい?」
「んー、日本!」
「どうして?」
「だって行ったことないもん」
ユダヤ人は放浪の民である。故郷を知らない。同様に千畝の子供達も故郷を知らない・・・
彼らもまた、放浪の民なのだ。
総評。
伝えたいメッセージが多すぎたのだろう。全体が漠然としてしまっている。「先入観」のせいで千畝からも必死さが伝わってこない。
面白いか面白くないのかで言えば、やや面白い。でもいまいちピンとこない映画でした。