おはる

皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇のおはるのレビュー・感想・評価

4.0
「それでもここにいる 愛するフアレスに」
メキシコ麻薬戦争の実態について描いたドキュメンタリー。メキシコ、シウダー・フアレスの犯罪現場捜査官とアメリカでナルコ・コリードという音楽で成功を夢見る歌手の2つの視点で物語は進む。

シウダー・フアレスといえば『ボーダー・ライン』でも出てきた米墨国境の街でもあり麻薬カルテルが暗躍する街でもある。2007年の殺人件数は320件、2010年にはその10倍以上に跳ね上がり世界一危険な街といっても差し支えないほど(ちなみに50m先のテキサス州エル・パソはわずか5件だそう)。そんな街で捜査官たちは毎日発生する殺人事件の遺体や証拠品の回収作業に従事している。だが事件の捜査はできない。なぜなら下手に動けば麻薬カルテルから命を狙われるからだ。そして麻薬カルテルの犯罪に対して何もしない警察を市民たちは信用していない。

一方、アメリカでは主にヒスパニック系の人々の間でナルコ・コリードがムーブメントになりつつある。ナルコ・コリードの特徴は陽気なリズムに乗せて麻薬カルテルの行う暴力を礼賛する点にあり、その歌詞の暴力性はギャングスタラップなど霞んでしまうほど。そんな音楽に熱狂するメキシコの過酷な現実を知らないアメリカ育ちの若者は「将来は麻薬ギャングになりたい」などと軽々しく口にする。またメキシコ国内の若者ですらナルコ・コリードで踊り明かすのだ。

これがメキシコ麻薬戦争の実態なのだと観た後どっと疲れた。なんというか救いがない上、どうにもならないほどに全てが狂っている。人々の間に麻薬カルテルへの憧れがある限り、この戦争は永遠に終わらないのかもしれない。

余計な心配なのかもしれないが、本作に登場した人たちは麻薬カルテルから目をつけられて命を狙われたりしていないのだろうかと少し気になった。
おはる

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