manac

アリスのままでのmanacのネタバレレビュー・内容・結末

アリスのままで(2014年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

アルツハイマーについて考えさせられる

ジュリアン・ムーアの演技が圧巻だった。
病気が進行していくと、表情が変わる。
言語学者であるアリスは当然高い知性と教養を持ち合わせており、一見して知的なオーラを放っているが、病気が進行してくるとあどけない子供のような表情を見せる。
同じ顔だけれど、まるで別人のよう。
内面が顔に出るってこういうことか。

ビデオレターのシーンが印象的だった。
まだ初期段階のアリスは、病気が進行した将来の自分へビデオレターを残す。
自分が自分でなくなった時のために自死を促す内容だ。
方法を丁寧に説明し、あらかじめ用意しておいた薬の場所を指し示す。
病気の進行したアリスはそのビデオレターに従おうとするが、実行しようとするわずかな時間の間にも記憶が飛んでしまう。
アルツハイマーになるということは、自殺を選択することもできなくなるのだと、改めて考えてしまった。
自殺の賛否は置いておくとして、自身で選択できるかできないかの違いは大きい。

アリスの家族構成が共感できる観客は少数だったのではなかろうか。
最終的にはアリスの次女が介護に専念することでラストを迎えるが、ごく普通のサラリーマンの家庭ではできないことだと思う。
若い時代に職も持たず家にこもっていても普通なら親の方が先に亡くなるのだからその後の娘の生活は誰が支えるのか、自活できるのかという問題が出てくるが、アリスの家庭ではその問題がない。
夫は大学の学部長、長女は言語学者、長男は医学部生で順当に行けば職に困ることはないだろう。
仮に次女が生涯無職であっても、経済的に困ることはなさそうだ。
結局介護に専念するには経済的余裕がないとできないことだ。
全てプロに任せるにしても、やはり経済的問題が発生するけれど、少なくともこの家庭ではその問題はない。
家族の現実的な生活の苦悩がない分、アリスの病気に対する苦悩がクローズアップされたわけだが、観客が共感するには少々恵まれすぎた環境のようにも思える。
将来的に兄弟間で遺産配分や次女への経済的支援に関する問題が発生する別のドラマが生まれそうではあるが。


原題の『Still Alice』、直訳すると「まだアリス」。
これもまた感慨深いものであった。
記憶を無くして自己を認識できなくなると、もう自分では無くなるのか?一体何をどこまで保っていれば、「まだアリス」なのだろうか。
話は飛躍してしまうが、ヴァンパイアやゾンビもののホラー映画にも似てないか?
ヴァンパイアになってしまった家族を「あれはもうお母さんじゃないんだ」と胸に杭を刺すようなシーン。
ホラー映画は完全にフィクションなので「そーなっちゃったら仕方ない。もう彼女はいないんだ」となるわけだけれど、「もう彼女ではない」が認知症だったらどうだろう?
完全に記憶を失ってしまったらもう本人ではないと割り切れるだろうか。
無理だな。
認知症になった人を殺すことは普通ないだろうが、その人が変わってしまっても大切な人だったらそれはずっとそのままだ。
実際祖母が認知症だったので、その状況は想像するまでもない。
とすると、私はホラー映画の登場人物になったとしたらゾンビに変わってしまった家族や友人を殺せない役所になってしまうだろうな。
manac

manac