砂

パプーシャの黒い瞳の砂のレビュー・感想・評価

パプーシャの黒い瞳(2013年製作の映画)
3.9
文字や記録(歴史)を持たないジプシーの初めての詩人、ブロニスワヴァ・ヴァイス(パプーシャ)の波乱の人生を綴った作品。
時系列がバラバラで最小限の表現で切り替わるため少しわかりづらい。

パプーシャはジプシーにおけるタブーである文字の読み書きを覚えたことや外部の者とともに暮らしたこと、歴史の不幸もあってまったくありようの異なる2つの世界から孤立してしまう。すばらしい詩情と才能に恵まれながらも、それが表出したことで彼女は不幸になってしまう。
詩人というものは基本的に幸せになれないようで…

ジプシーがどのような人たちなのか、どのような精神文化(世界)か、近代いかに文明社会に取り込まれることになったのか…などが本作で概要がつかめるので、歴史的な勉強にもなる。
作中では後に目の敵となってしまうワルシャワからの流れ者を他所者と言いつつも受け入れていたが、ジプシー自身も逆の立場になってしまう。
作中では異文化にうまく適応したもの、そうでもないものが描かれる。
近代資本主義文明における社会システムから、精神原理において根底から逸脱しているため、当然現代にも遺恨を残すはずだ。

本作はモノクロ。かなりシャープで、風景などは少しコントラストが強い。なぜモノクロなのかという点で主には美意識的観点が特に大きな理由だそうだが、長回しの広角な静的カットが多用され、写真のようで美しいシーンが多い。たしかに詩的な映像ではある。
だが理知的なカットが連続することには少々違和感を覚えた。中盤以降はそうでもないが自然描写において作為性が目立つ。ジプシーを外から描写した、という意味合いではおかしくはないが…

もう1つの特徴であるジプシー音楽、これは作品中いたるところで堪能できる。クストリッツァの作品でもそうだが、喜悲劇的な特色を強める。

日本でもパプーシャの詩は翻訳されているようなので、そちらも読んでみたい。
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