松井の天井直撃ホームラン

ロマンスの松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

ロマンス(2015年製作の映画)
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↓のレビューは、以前のアカウントにて鑑賞直後に投稿したレビューになります。

☆☆☆★★

行動しない後悔よりも行動しての後悔

冒頭にて、主人公である鉢子は、寝ぼけ眼の彼氏に哀願される。

「一万円貸して…五千円……千円でいい。」

そんな彼氏に鉢子は、そっと二千円を枕元に置いて仕事へと出掛ける。

彼女は自分で自分の長所も短所も知っているのだと思う。
仕事はテキパキとこなし、外面も悪くない。完璧とまではいかないが、周りからも頼りにされ信頼も厚い。
だけどそれは無理矢理に作り上げた裏の顔で、本当の自分自身では無い事を。

本当の自分の姿は同僚の久保ちゃんや、ふとしたきっかけで知り合い一緒に行動する事になる桜庭との、何気ない会話等で発揮される、嫌味で生意気な女で有るのを自覚しているのだと思える。
そしてもう一つ、嫌な事を嫌!…とは言えず案外と周りの人間に流され易いのも同時に。

だからこそ鉢子は冒頭彼氏に二千円を渡してしまうし。桜庭に強引に引っ張られ、映画終盤には「あたし何でおっさんとこんなところに…」と、もうどうにでもなれ状態にまで行ってしまう。
おそらく彼女は心のどこかで"変化"を求めていたのかも知れない。

その心の隙間を桜庭は土足で踏み込んで来たのだが…。

桜庭は桜庭で、自分自身のちゃらんぽらんな性格を自覚している。寧ろそれを武器にして世間を渡り歩いて来たのが分かる。
そんな男が人生に於ける一代チャンスに敗れ去り、破れかぶれで乗ったのがロマンスカーだったのだろう。
だからこそ鉢子が破り捨てた母親からの手紙に、自分自身を投影したのだと思う。
そんな二人だからこそ、口喧嘩をしながらも一日を過ごして行く内に、お互いがお互いの心の、ほんの小さな隙間を埋めあったのかも知れない。

劇的に自分自身に変化が起こった訳ではない。
でもほんの少しだけ心に余裕の様なモノが生まれたのだろう。
だから鉢子は、最後に満面の笑顔を見せたのだと思う。

その素敵な笑顔と共に、台詞や二人が行動する範囲には、映画ファンの心をチクチクと刺激して来る仕掛けが。
決して傑作って作品では無いですが、心をちょっとだけ温かくさせてくれる佳作だと思います。

(2015年9月2日/ヒューマントラストシネマ渋谷/スクリーン2)