螢

エール!の螢のレビュー・感想・評価

エール!(2014年製作の映画)
3.8
少し強引なくらいのシンプルな展開ですが、ある一家の変容が愛情深く描かれていて、最後は涙とともに、あたたかな気持ちで見終えた良作です。

フランスのとある田舎町。家族経営の小さな牧場を営み、週末には市場で手作りチーズを売る少女ポーラの家。とても仲のいい家庭だけど、両親と弟は耳が聞こえず、家族の中で、ポーラだけが耳が聞こえた。
だから、ポーラは幼い頃から家族の耳と声がわりで、牧場の取引先との交渉や接客といった仕事も含め、外の世界と家族をつなぐ役割を全て担ってきた。
このまま、家族のために、牧場を手伝い、チーズを売り、村で過ごすと思われたポーラの人生。

だけどある日、転機が訪れる。好きな男の子の姿につられて受けたコーラスの授業で、とんでもない才能を見出されたのだ。
教師から、パリの音楽学校の試験を受けるよう強く勧められるポーラ。

夢に向かって特訓を始めたポーラだけど、耳の聞こえない家族に音楽の才能を理解してもらうのは難しい。それに、自分がいなくなれば、家族の生活が成り立たなくなってしまうと思い悩んで、中々試験のことを家族には言い出せない。
けれど、打ち明ける時は来て…。

基本的には、田舎の少女が才能を見出されて飛躍しようとする、とてもシンプルなストーリーなのです。でも、だからこそ、愛情あふれるゆえにぶつかったり、理解しようと努めたり、抱きしめ合う家族の姿が際立ち、最終的に彼らが選んだ未来と、変化する家族の形に自然と涙が出てしまいます。

単細胞な熱血漢のようで、娘の意志を尊重し、手を離そうとする父。
赤ん坊同然の子供だと思っていた娘の成長と自我に戸惑う母。
思春期まっただ中の弟。
そして、長年家族を支えてきたゆえに、ひどく大人びた面がある反面、やはりまだまだ子供らしさの残るポーラ。

それぞれの愛情、依存、束縛、自立、独立、そして、最終的にみんなで選んだ新しい家族の形に、繰り返してしまいますが、涙が流れました。
ポーラが家族への思いのたけを込めながら歌い、それを皆が見つめるシーンがまたいい。

どの家庭にも、家族の形が変わる時は必ずあるので、自分自身を重ねてつい感情移入した面もあるかもしれせん。

脇を固める人々も、どうしようもない俗的な面は確かにあるけど、みんなチャーミングで、憎めなくていい。

難しいことを考えずに、楽しみ、感動できる、良い作品でした。
螢