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マルメロの陽光の1000のレビュー・感想・評価

マルメロの陽光(1992年製作の映画)
4.4
2時間の間、ひとりのおっさんが絵を描き続けるだけの話なのに、すごくずっしりくる映画だ。転がり落ちるだけなのに岩を押し上げ続けるシーシュポスのように、アントニオ・ロペスは創作という不条理から逃れられない。壁の穴を埋める工事という、やってさえいればいずれ完了するもうひとつの「作業」との対比も見事だった。

大したことは起きないのに、すごく変な映画を見た気がするのは、これがドキュメンタリーとフィクションの垣根を軽々と超えてしまっている映画だからだろう。絵を破り捨てるような、記号化されたアクションはこの映画には無縁である。だからこそ、静かな挫折の瞬間が収められているというのは、にわかには信じがたい奇跡である。

画家がモデルに変容し、カメラが画家に、照明が陽光に変容するラストは、作品の象徴性が爆発する瞬間で、いやはや鳥肌がたった。そこには少なからず絵画ないし人間の敗北と、映画ないし機械の勝利があった。しかし、老いと死を前にしても夢見ることをやめられないのもまた人間なのだろう。
『瞳をとじて』の前に見れてよかったな。
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