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呼吸 友情と破壊のotomisanのレビュー・感想・評価

呼吸 友情と破壊(2014年製作の映画)
4.0
 "クラスメイト"を殺し母親に凶行を示唆して、呼吸障害の発作では吸入器にも頼らずひとりで乗り切り、殺人者として自らに、また国家と世間に向き直る第一歩を印せたと感じたろうか?
 しかし、奥手の自分がやり手のサラをなぜ殺せたか、なぜ誰よりも早く転入生のサラと親交を始められたのか、なぜ"友達"として紹介できなかったのか、掌を返したようなサラの不実に曝されながらも幼馴染を袖にして、また、気にかけてくれる周囲にも背を向けるようにまでしてひとり内攻を深められたのか、サラが死んで彼女の心中を問う術を喪い、このさき我を通しきってしまった自分とどのように対決すればいいだろう。

 サラとの最後のひととき、サラの侮蔑に殺意しか覚えなかっただろうか。貴重にもサラはシャルリに向かって、不仲が明るみになったのにシャルリが断ってしまった退路の数々を指摘してくれたが、それが屈辱的に響いたのも頷ける。サラを独占できず未練も断てない自分への幻滅をおそらく見透かしているだろうサラを結果、容赦できないのも頷ける。
 しかし、そうして不快なサラを否認したことがシャルリ自身の自由も奪ってしまうだろう。シャルリとは何者か、サラにこころを奪われて、周囲をすっかり疎外したシャルリをサラは対照的に窮屈な相手と見做して離れたのではないか。

 サラ本人を殺して今や誰よりもサラをよく知っているシャルリが自分というサラの記憶への縛りを解いてどこまで愛憎半ばしたサラを再現できるだろう。やがて訪れる精神鑑定と審問にたじろがない自分を先ず呼吸を我がものにする事で立て直さなければならない。なにしろあのサラは死んで自分は生き残ったのだから、呼吸ごときを制さずに何に立ち向かえるだろう。
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