Yoshishun

ノック・ノックのYoshishunのレビュー・感想・評価

ノック・ノック(2015年製作の映画)
3.3
"イーライ・ロス版『ファニーゲーム』"

久々に来ました……!
極悪胸糞バッドエンドムービー笑笑!!!


妻子に恵まれ幸せな家庭を築いていた建築士エヴァン。1人留守番している中、雨でずぶ濡れの美女二人が訪ねてくる。知人の家を訪ねるも迷子になったという彼女らを助けるため、エヴァンは二人を招き入れる。ただの善意で助けたにも関わらず、二人の誘惑に負け、敢えなく肉体関係を持ってしまったエヴァン。ところが、翌朝目覚めた彼の前には、勝手にキッチンで食い散らかす二人の姿があったのだった。


良い人すぎることで有名なキアヌ・リーヴスがとにかく痛い目に遭う不条理ホラー。ネオやジョン・ウィックのような最強っぷりは見る影もなく、フォークでちょこっと刺されただけで動けなくなる程の弱っちい中年親父を演じる。本当に何の悪意もなくただ人助けをしただけなのに、たった1つの誘惑に乗ったことで破滅の道を辿っていく。

設定やストーリーについては、かつてミヒャエル・ハネケ監督が手掛けた鬼畜スリラー『ファニーゲーム』と類似している。困っている人を助けただけで次から次に不条理な災難に見舞われる。しかし、本作はそこに主人公の1つの失敗が加わる。いくらラスト20分でこの惨状をひたすら吐露したとしても、あの誘惑さえはね除ければ、この事態にはならなかったかもしれない。しかし、キアヌじゃなくても男ならあの状況にうまく乗せられてしまうのも事実。ジェネシスが言及している通り、どれだけ愛する人がいても、目の前に二人の美女が全裸で覆い被さってくれば無意識にその身を捧げてしまう恐れはある。そんな男性の性欲の強さがあんな悲劇を招くのだから、はじめからどうしようもなかったと思う。思えば、序盤にエヴァンは妻とのセックス未遂という状態であることが明かされているので尚更である。

そんなエヴァンに襲い掛かるジェネシスとベル。目的は同じでも性格はやや対照的に描かれている悪役という点も『ファニーゲーム』と似ているといえる。キッチンは食い散らかし、エヴァンの妻の芸術作品を破壊し、エヴァンのあそこを映したまま妻にビデオ通話をかけようとしたりと、本当にやりたい放題。殺人をも厭わず、この悪行の数々を"ゲーム"と片付けてしまう点も人智を外れた悪女に相応しい。

しかし、『ファニーゲーム』のようなメッセージ性はかなり希薄で、思わせ振りな映像はあるのにそれが活かせていない点は残念なところ。
例えば序盤でわざわざハリウッドの看板が映されるのだが、これは若い女性が、性的イメージの象徴として描かれがちなハリウッド映画に対する直接的なアンチテーゼであると思わされる。しかし、彼女らの目的は、ただ1度肉体関係を持ったエヴァンをボコるの一点張り。 そこにメッセージ性や知性は全く感じられず。単に胸糞映画にしたかったならまだしも、わざわざあんな若い女性を悪役としたり、思わせ振りな映像が随所にあるにも関わらず、全て記号的にしか活かされていないのが勿体ない。

また、中盤で二人の襲撃に関する真実が明かされるものの、それでも彼女らの襲撃目的は一切明かされないのも腑に落ちない。匂わせ程度なのであれば、ただの後付け設定にしかみえない。
他にも、鍵や窓を割った形跡も無いのにどうやって侵入したのかもさっぱりわからない。


結論としては、『ファニーゲーム』のようであって、『ファニーゲーム』程のスマートさは一切感じられない。この手の胸糞映画は嫌いではないが、少し疑問の残る作品だった。


あと、キアヌ・リーヴスよくこれに出たなと思ったが、何と製作総指揮にも彼の名が。それまでの出演作品にある屈強で勇敢なイメージを脱却したかったのか。
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