不在

エンドレス・ポエトリーの不在のレビュー・感想・評価

エンドレス・ポエトリー(2016年製作の映画)
5.0
ホドロフスキーの映画には、常に怒りと悲しみがあった。
紛争、虐殺、独裁、金、そして宗教。
腐敗した人間たちに対する憎悪に満ち溢れていた。
しかしそこには他の何よりも強い、父への恨みがあった。
だからこそ彼は何にも縛られない、自分だけの世界を求める。
その答えが映画であり詩だった。

父からの虐待を受けて育ったホドロフスキーは他の誰とも似つかない感性を授かったが、それと同じだけ癒えない傷も負った。
しかし彼には沢山の友人や協力者がいた。
自分と同じ経験をした芸術家にも大勢出会っただろう。
ホドロフスキーは自分を支え、生かしてくれた全ての人達への恩返しとして、この映画を作った。
そして彼は、そこに父の名前も書き連ねるのだ。

ホドロフスキーの芸術の原点ともいえる『天井桟敷の人々』の主人公バチストは言葉を持たない者とされ、それ故に愛から遠ざかってしまう。
だからこそ、ホドロフスキーは語る。
注いだ愛、注がれた愛、怒りと悲しみ、そして後悔。
人生が見せる全ての感情を私達に聞かせる。
人には必ず終わりがある。
しかし言葉にすることで、それは永遠に続く、終わりなき詩になるのだ。
不在

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