えんさん

怪物はささやくのえんさんのレビュー・感想・評価

怪物はささやく(2016年製作の映画)
3.5
難病の母を持つ少年コナー。彼はいつも同じ悪夢を見、それにうなされていた。現実世界も彼にとっては厳しいもの。大好きな母親は日とともに弱っていくのが分かるが、彼にはどうすることもできない。一方、学校でもクラスのいじめっ子グループに目をつけられ、周囲からも可哀想な奴というレッテルの眼差しで見つめられていた。そんな彼のもとに突如怪物が現れる。木が变化したその怪物は3つの話をするから、4つめの物語として彼が隠す真実を語るよう告げるのだった。。世界的ベストセラーとなった児童小説を「インポッシブル」のJ.A.バヨナ監督と「パンズ・ラビリンス」の製作スタッフにより映画化した作品。原作は作家シヴォーン・ダウドが遺したアイディアをパトリック・ネスが引き継ぎ完成させ、2012年カーネギー賞とケイト・グリーナウェイ賞をW受賞。そのパトリック・ネスは本作の脚本にも参加しています。

「パンズ・ラビリンス」のスタッフが送る、めくるめく怪物についての映画、、といわれると、映画通なら食指が動くというか、興奮を覚えるという宣伝文句かもしれません。まさに、この映画はこうした予告編から醸し出される雰囲気が実に面白そう、、という味に包まれているといっても良いくらいでした。「スリーピー・ホロウ」や「パンズ・ラビリンス」などのいわゆるダーク・ファンタジーは大好きなので、どういった世界観が繰り広げられるか。久しぶりに、パトリック・ネスの原作(挿絵も含め、装丁が美しい本)を堪能しての鑑賞となりました。

ただ、本作に関しては、予告編での興奮と、原作本を読んだときのイメージを思い返すと、いささか想定内というか、野球で言うと最低限の進塁打とか、満塁での犠牲フライ程度の出来なのが少々残念といった印象でした。何でしょう、確かにCGも含めて、怪物の造形などもいい感じにできているんですが、話の奥行きがちょっと狭く感じられるんです。例えば、コナーの母親に対しての想いというのが、原作本ではすごく心の底に封印されているからの苦しみとかが、怪物に吐露する4つ目の物語に集約されるんですけど、お話は筋を追うのに一生懸命で、イマイチ底の浅いような感動しか湧き上がってこないのです。それはコナーの祖母(母の母)についても同じ、、といった感じです。

でも、原作の世界観は大きく崩していないのは流石に凄い。よく客観的に見える登場人物の置かれた状況と、実際にその主人公になったときに感じる想いというのは得てして違うものですが、そうしたアンニュイな距離感をバヨナ監督は作品の中でうまく表現できていると思います。