MasaichiYaguchi

パリ3区の遺産相続人のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

パリ3区の遺産相続人(2014年製作の映画)
3.4
本作では邦題が表しているように“遺産”を巡る人間ドラマが展開する。
一文無しの初老の男・マティアスは、父親から遺産相続した高級アパルトマンを売却して人生をやり直そうとニューヨークからパリにやって来る。
ところが、そこには大きな障害が待ち受けていた。
それはそこに住みついていた老婦人マティルドと、フランス独特の不動産売買システム「ヴィアジェ」。
この「ヴィアジェ」は、不動産を売却しても売主は亡くなるまで住み続けることが出来、買主は売主が亡くなるまで毎月一定の金額を支払い続けなければならないというもの。
借金も抱えているマティアスは直ぐにでも金を手に入れたいのだが、マティルドと一緒に暮らす娘のクロエも加勢してきて事は思うように運ばない。
アパルトマン売却を巡る攻防の中で、マティアスと彼女らとの意外な関係が明らかになっていく。
そして尾羽打ち枯らしてパリにやって来たマティアスのプロフィールや、その冴えない人生に至った元凶、過去の悲惨な出来事が語られる。
この作品の背景になっているのは男女のドロドロの愛。
この愛の底無し沼に足を取られ、もがいてきた人々が遺産相続を契機に出会ってお互いの過去を見詰め直し、夫々知らなかった家族の歴史を見出していく。
暗くなりがちな題材を扱っていながら重くならないのは、舞台が古き良きフランスの地区だということと、エスプリやユーモアが作品に鏤められているからだと思う。
そして三人の主要キャスト、「ダウントン・アビー」のマギー・スミス、シェイクスピア劇俳優として舞台でも活躍しているケヴィン・クライン、「サラの鍵」のクリスティン・スコット・トーマス、彼らの素晴らしい演技によって紡がれたドラマは我々の心の琴線に触れ、微笑ましい温もりを届けてくれる。