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光をくれた人のdeenityのレビュー・感想・評価

光をくれた人(2016年製作の映画)
3.5
夫婦の間に子どもができ、しかしそれが流産してしまって悲しみに暮れている所に赤ちゃんが流れてくる。そして大切に育てていると、実はその子の母親に出会ってしまって自問自答する。
予告CMの印象だけで行くことを決断。実際は夫婦は灯台守の旦那トムと奥さんイザベルの二人が灯台のある離島で二人きりで過ごす設定で、さらに流産も2回経験していたとわかる。そして母親が誰かということを知っているのは父親だけなわけで、映画的な興味としてはしっかりと惹きつけられる。

ただ、前提としてこの作品のテーマとなるのは罪と赦し。そして子どもを巡る良心との葛藤というよりは夫婦の愛の物語である。

灯台守という職に就くことで出会い、仲を深め、結婚するという展開であるため、実際時間的な絆が強いわけでもない。しかし、その時間的問題を超越するほどの愛が二人には芽生え始める。過去の戦争を通しての旦那の心の傷を癒すということで、互いに必要とする関係となる。それを表現するシーンはよかった。非常に丁寧で、短い付き合いという印象を払拭するかのような離島で生活はまさに楽園のようだ。

その一方で子どもを身ごもり、二人の愛の結晶として産もうとするも二回も流産という結果に終わってしまうことは、経験もない自分にすら相当な精神的ダメージを負うのであろうことは容易に想像できる。
だからこそ、もっと丁寧にその絶望も描いて欲しかった。本作はその点が浅い上に短すぎる。確かに二人の愛の強さ、温かさっていうものは本作の演出ならよくわかる。でも、だからこそ地に落ちるほどの絶望も共にして回復していく様を描いてくれたら、もっとより際立つものだってあったはず。感情や関係の起伏をもっと作ってもよかった。

さらに加えて言えば、本作の欠点は感情移入がどこにどう持っていけばいいか迷ったことにあると思う。テーマと関わる部分としては確かに半分より後半の方が主で、前半部分はそのための演出だ。だからあまりダラダラやってもグダッてしまうかもしれない。しかし、その絶望感が軽かったが故に夫婦のやってはいけない行為やその後の波乱が弱くなった気もしないではない。
確かに本作でも十分夫婦には感情移入できた。だから二人の行為も肯定的に思えた。そして実の母親を見た時に「やっぱダメだよな」って後悔の念にも駆られた。だけどその後の二人の衝突にはちょっと一歩引いてしまった。ま、はっきり言ってイザベルに引いてしまったわけですが。だって絶望感が浅いから子どもを育てようとした場面がわがままに思えなくもないんだもの。イザベルのトムを赦せないって感情が理解できないんだもの。トムはあんな全てを背負って犠牲になりますよ、みたいな感じを取られたらそりゃ誰でも同情しちゃいますよ。でもそれでもトムを追い詰めちゃう気持ちもわからんでもないよな、って思わせるくらいイザベルにも感情移入させられなければいけないと思う。そのためには前半での二人での生活を描いたシーンを長くてももっと丁寧に描いてあったらよかった。惜しい。

ただ、テーマとしては面白くて、いけないとはわかっていながらも子どもを育てていく様は『八日目の蝉』なんかを彷彿とさせるんだけど、でも一夫婦の愛がテーマだと考えると単純に比較はできない気もしてきて、そこに本作の差別化として「罪と赦し」というテーマが加わると結構考えさせられる。イザベルの赦し、娘の実母ハナの赦し、そして娘ルーシーの赦し。特に最後のシーンは素晴らしい。会話シーンではなく、出会って誰かも認識するシーンは最高にグッと来る。
惜しい部分もあって辛口にはなったが、それぞれが罪を背負い、何かを赦して生きていく力強さと優しさを感じる作品でもあっていい作品だった。
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