ジャン黒糖

ゴーストバスターズのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

ゴーストバスターズ(2016年製作の映画)
3.4
アイヴァン・ライトマン監督による不朽の名作シリーズを、『ブライズメイズ』『デンジャラス・バディ』などのポール・フェイグ監督でリブートした2016年公開の作品。
ゴーストバスターズの面々を男性から女性に、秘書を女性から男性に、というキャストの性別を反転させて一新!


元々は2008年ごろ、前作からおよそ20年のときを経て、監督続投&オリジナルキャストによる3作目として作られる構想があったそうな。
ただ、ビル・マーレイが脚本に納得いかずに出演辞退したり、度重なる脚本家の交代&改稿が行われたり、その度に制作ストップしたり…などの紆余曲折あった末に、若いキャストに一新させてオリジナルメンバーから継承する話、という骨子までは決まっていたらしい。
しかし、2014年2月にはイゴン役のハロルド・ライミスが亡くなり、これを受けてアイヴァン・ライトマン監督が降板。
事実上制作ストップとなったところ、同年10月にはポール・フェイグ監督&ケイティ・ディポルト脚本により再始動し、その2年後に公開された。


本作、この紆余曲折に比してポール・フェイグ監督に決まってからの急ピッチさこそ、この映画のなんとも微妙な評価の一因のように思える。
現に、本作のリブートには、続編の構想もあったにも関わらず、興行的には製作費を回収できる及第点に届かず、その構想は無くなってしまった。
製作費の内訳こそ知らないけど、ポール・フェイグ監督に決まるまでの何度もの練り直し、製作中断、再キャスティング調整などがなければ十分に回収できるぐらいにはヒット出来ていたかもしれない。

それぐらい、評価的には他のシリーズ作品に比べても本作は決して悪くない。
※2023年2月14日時点のIMDbでは以下の通り。
1作目:★7.8、Metascore71
2作目:★6.6、Metascore56
本作:★6.8、Metascore60
アフターライフ:★7.1、Metascore45


お話自体はオリジナル版より上手くアップデートされている、というか見やすくなっている部分もある。
特に主要4人の構図は、わりとオリジナル版に近いバランスでありながらちゃんとアダプテーションされてる。
ビル・マーレイ演じるピーターにおける学術研究の分野に居続けたいのに腐れ縁のせいでやむなくゴーストバスターズに加わる流れは、クリステン・ウィグが演じる教授職に就きたいエリーが昔若気の至りで書いた本の共著者であり旧友のアビーによってゴーストバスターズ結成するハメになる流れと重なる。

ただ、リブートの壁というか、前作より"上手"に作れている部分があるからといって、それが前作より"好き"かというとそれはまた別で、本作にはオリジナルキャスト4人によるミラクルがあまり起こらなかったのかな…良くも悪くも、大衆向け娯楽作品としてはウェルメイドな感じに収まったのかなと。

たとえば、オリジナル版だと4人のなかでもウィンストンは明確に陰の薄いキャラとして扱われていたけれど、本作において主要人物のなかにそういった薄い人物はおらず、本作ではゴーストバスターズたちの連帯感がより強調されて描かれる。

オリジナル作にあった、女たらしのヴェンクマン博士とディナのデートシーンのような、メインストーリーからは一見蛇足のような、単独行動によるオフビートな笑いと波乱なんかも本作にはない。

社会的には除け者扱いを受ける女性主人公らが、それでも協力し合って立ち上がろうとする姿を一貫して描いている点も、オリジナル以上にメッセージ性は芯を通っている。
特にケイト・マッキノン演じるホルツマンは、一見奇人のように振る舞う博士だけれど、彼女が最後にみんなと乾杯をする場面では、その不器用さが異質でありながら魅力でもあり、それを受け止めるほかのみんなも良かった。

ただ、メッセージ性がわかりやすく、主要キャラたちもしっかり連帯しているからといって、それがこの映画を好きといえる愛着にまで昇華できているかというとそこはまた別。
彼女たちの下品なトークによる笑いは時折、明らかに物語のスピード感を停滞させてしまっているし、その下品さが作品にプラスに働く場面も多くはない。

特にクリステン・ウィグ演じるエリーが途中戦線抜けてから復帰するまでのクダリは、意味あったのかな、、と気になった…。
(ただ、クリヘム演じるケビンは最高にただただバカで全シーン笑った!ケイト・マッキノン演じるホルツマンはカッコよかったよ!)

また、シリーズお馴染みの巨大なゴーストも、前作2作目よりはちゃんとなぜそのゴーストが誕生したのか、それなりに理由があるし、インパクトもある。


ということで、オリジナルより良く出来ている部分もありながら、オリジナルほど"尖った"魅力が数多くなかった印象の本作。
ただ、それらを理由にオリジナル2作や、続く『〜アフターライフ』とは本作を切り離して、まるで別物、まるで無かったかのように扱われるのはあまり良くないかなぁと。


この映画が公開された翌2017年10月、ニューヨーク・タイムズがワインスタインを告発する記事を発表し、のちの#MeToo運動に繋がったことを考えると、本作における女性たちの連帯感は、エンタメにおける女性の描かれ方をめぐる、当時の空気感の変わり目を反映した結果のように思える。
(元々はポール・フェイグ監督作自体、女性を主人公にしたエンタメ作が多い、という要素は勿論のこと)


また一方で、昨年にはオリジナル版監督のアイヴァン・ライトマンや主演のビル・マーレイによる(ゴーストバスターズに限らない)セクハラ被害の告発、暴露話が露わになるなど、適切な表現ではないがハリウッドに蔓延していた"これが当時のやり方"を名監督、名優が行っていたとはやはり悲しいことだ。

そんなこともあって、スピンオフとして本作を語られるのはまだマシで、まるで本作がシリーズに並べられてはいなかったかのように語られるのは変。
ゴーストバスターズのコンプリートBOXにこのリブート作が入っていないのとか見ると余計に悲しくなる。

自分にとっては今後も愛でたくなる、というほどの作品ではないけれど、ただ元のオリジナル版だってそこまで強い愛着を持っている訳ではないので、本作リブート版がオリジナル版以上に"上手"に作られていることは良い部分だと思うからこそ、シリーズにおいてあまり脇には追いやらないで欲しいなぁと思った。
ジャン黒糖

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