きえ

僕と世界の方程式のきえのレビュー・感想・評価

僕と世界の方程式(2014年製作の映画)
3.7
2017/128公開
『僕と世界の方程式』

原題は『 X+Y 』
物語に合わせて数学的。
角度を変えて生物学的に見ると…
母親のX染色体+父親のY染色体
=男の子XY👼みたいな笑。

つまり数学に天才的才能を持つ男の子の話。自閉症スペクトラムと診断された少年ネイサンは数学の才能を基に国際数学オリンピックで金メダル🥇を目指す事になる。お話のベクトルはサクセス物のようでいてそうではない。

他人とのコミュニケーションを取るのが苦手なネイサンが国際数学オリンピックに出場するまでに出会う人々や経験を通して成長する姿を周辺人物も丁寧に盛り込みながら描いた群像劇だった。

他人とのコミュニケーションと書いたけど実際には父親以外とのコミュニケーションの全てが苦手。つまりそれは母親からのコミュニケーションが一方通行である事を意味する。子育てなんて多かれ少なかれ片思いではあるけど、にしても少々辛過ぎる。愛する我が子に手繋ぎを拒否されるダメージたるや失恋の比ではない。にも関わらず愛情を注ぐ母親の姿に切なさと共感とが入り混じる。愛してくれないから可愛くないではなく愛してくれなくても愛する事をやめないのが母親と言う生き物。このお話の1番の核は母と息子の物語だ。

人生は数学なのだとこの作品を見ながら感じた。生まれた瞬間に与えられ死ぬ直前まで解き続ける『人生の方程式』をベースに『親子の方程式』『愛の方程式』などありとあらゆる方程式を解く事が人生なのだろう。中でも愛の方程式は女Xと男Yの連立方程式になっている。どうりでなかなか解けない訳だ。学生時代最も得意な科目が数学だったのに人生の方程式も愛の方程式もまだ道半ば…。人生の時間内に解けるのだろうか⁈

そして人は人生において足し算ばかりを教える。そればかりか最速で答えを出せる掛け算まで。あれもこれも得る事(プラスして行く事)が大切だと。君の為だよと。でも人生には必ず引き算がありどうしても割り切れない割り算がある。足し算を良しとする人生観は引き算が恐怖でしかない。でも引かれる事は決して魅力や能力が減るのではないと言う事を教えなくてはいけない。割り切れない事もあるのが人生だと言う事も。この作品はそんなメッセージに包まれた群像劇だ。

ネイソンはオリンピックに向けての台湾合宿の中でプラス(淡い恋心)とマイナス(劣等感)を経験する。『可愛い子には旅をさせよ』の通り戸惑ったり落ち込んだり悩んだりしながらも確実に心が成長して行く。そして人は誰に出会うかによって変わる。出会いの大切さとそれに気付く事の大切さをネイソンを通して改めて感じた。

人への関心と興味、共感性、ときめき、ときめきに伴う体の変化…
それらをコミュニケーションと言うならば苦手と言うのは出来ないのとは違う。苦手=マスターするのに時間が掛かると言う事に過ぎない。大切な人を失うと言う事はどう言う事なのか?ゆっくり時間を掛けてネイソンが出した1つの選択、それをたどたどしいながらも一生懸命母親に伝えようとする姿、そして息子の選択に何よりの嬉しさを見出した母、母の思いを知る息子… ラスト母親の運転する車の助手席に自然と座る息子… この一連はただただ胸熱だった。

恋は人に内なる感情を与え、感情の芽生えは共感を育てる。愛を知って初めて愛してくれる人の思いを知る。そしてそれを成長と呼ぶ… 良作!ネイソン圧巻の演技!

劇場で見逃してずっと気になってたけど見て良かった。
きえ

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