SANKOU

シンクロナイズドモンスターのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

2.5

このレビューはネタバレを含みます

職を失い恋人にもフラれてしまったグロリアは、生まれ故郷の街に戻り新しい生活をスタートさせようとする。
彼女は同級生だったオスカーと偶然再会し、彼の好意で家具などを調達し、彼の経営するバーでウエイトレスとして働かせてもらうことになる。
どこにでもありそうな普通の物語だ。ここまでは。
突如韓国のソウルに巨大な怪獣が現れ街を破壊するというニュースが彼女の目に飛び込んでくる。多数の犠牲者が出たソウル市民はパニックに陥る。
そして怪獣は一度だけでなく二度も現れる。だが行動が何かおかしい。
最初は街を歩き回り建物を破壊した怪獣が、二度目は立ち尽くすだけだ。時間もきっちり8時5分に現れている。
そして怪獣の行動をネットで観たグロリアは確信する。怪獣の動きと自分の動きがシンクロしていると。
無茶苦茶な設定で馬鹿なという話だが、ある公園の一角とソウルの街がリンクしていて、8時5分に彼女がその場所に立つと怪獣がソウルに現れる。
最初はその事実に驚きながらも興味をそそられ、彼女はオスカーとその仲間に実際に公園で色々と行動を起こして、それが怪獣の動きとシンクロしていることを確認させる。
しかし彼女はヘリコプターに攻撃されたことで思わず手を振り回すが、それが結果的にヘリコプターを墜落させてしまう。
無自覚ながら人の命を奪ってしまったことで、罪悪感に苛まれるグロリア。そして問題はそれだけでなかった。
何とオスカーまでもロボットの姿としてソウルの街に反映されていたのだ。
良識的な考えを持ったグロリアはソウルの街に怪獣の姿で現れ、ある方法で街の人々に謝罪する。そして、二度と現れることはしないと誓いを立てる。
これでやってしまったことが許されるわけではないが、罪を重ねることはなくなる、はずだった。
オスカーはグロリアが謝罪したにも関わらず再度公園を訪れ、ロボットの姿でソウルの街に現れ威嚇をする。
実はこのオスカーという人間はとんでもないモンスターだった。親切で優しそうに見えた彼は、心の中にずっと鬱屈したものを溜め込んでおり、その捌け口が見つかったことで人が変わってしまった。
荒唐無稽なSFアクションかと思っていたけれど、実はとても現代的な人間の心の問題を扱った作品でもある。
思わぬ形で多くの人に影響を与える力を手にしてしまった時に、それを良い方向に、人のために使おうとする人がいる反面、今まで大人しかったのに急に豹変したように、自己顕示欲を満たすために力を悪用する人もいる。
グロリアはオスカーに「あなたは自分のことが嫌いなのね」と言う場面があるが、オスカーは自分のちっぽけな世界から抜け出したいとずっと思っていた。
惨めな生活を送る自分がたまらなく嫌だったが、それを変えられるだけの力はない。
劣等感の塊だった彼は、ついに力を手にしたことによってグロリアを支配した気になって優越感を抱く。
彼女が自分に従わなければ、ソウルの街を破壊すると脅すことによって。
それで何の関係もない多くの人が犠牲になるとはまるで想像もしていないように。
どこまでも自分勝手な男である。確かに実際に自分の手で街を破壊したり、人を殺すわけではないから実感がわかないというのはあるかもしれないが。
まるで安全なところで、ネットで誹謗中傷の書き込みをして、人を傷つける人間と同じような感覚だ。
最終的にグロリアはオスカーには従わずにある方法で直接対決をすることになる。その方法もそんなのありかと思えるほど無茶苦茶なものなのだが。
毎晩怪獣が現れて大変なことになっているのに避難しないで街に繰り出すソウル市民の姿など、突っ込みどころの多い作品ではあるが、思わぬ社会的なテーマがあってそこは色々と考えさせられた。
グロリアに好意を寄せながら、彼女のために何の行動も起こせないジョエルという男は一体何だったのだろうと思ったが。
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