バンサーリー監督作品ファンなので観た。舞台はインド西部のゴア、キリスト教の美術や建築様式が異国情緒溢れる要素でその荘厳さに息をのんだ。また、これはおとぎ話や童話から抜け出たような幻想的な美しさをもった映像に「安楽死」という重いテーマを織り込んだ映画だった。
マジシャンでパフォーマンス中に事故に遭い全身不随になったイーサン。
彼の世話を付きっきりでこなす看護師のソフィア。
イーサンのマジックの弟子になりたいと押しかける変わり者の青年オマール。
安楽死を望むイーサンの瞳は、失うものはもう何もないとでも言うように振り切って晴れているように見えた。彼はよく笑うが、その笑顔はどこか虚無をたたえたもので、見る度にこちらが苦しくなる。死をもって救われる──これはマジシャンであった彼が最後に残す魔法なのだと感じた。
看護師の女性ソフィアは凛とした立ち姿に意思の強さが表れており、バンサーリー監督がよく描く「自立した女性」になっている。安楽死したいと願いを乞うイーサンにソフィアが静かに同意するのは、彼への愛を自覚していたからだと思うと胸が張り裂けそうになった。
青年オマールはイーサンを夢見てマジシャンになろうと彼の家に押しかけちゃう変わった人だけど、その明るさがこの映画の中では唯一ほっこりするところだった。そして「何度も失敗しろ、そして何度も立ち上がれ 」と語気を強めてオマールを指導するイーサンの眼差しに貫かれる。彼はもう精一杯生きた人で、それを次はオマールが継ぐのだとハッキリしたようなシーンだった。
イーサンを見事に演じ上げたリティク・ローシャンの演技の力量に度肝を抜かれた。表情が繊細に動く。リティクってこんな役もできるのかとさらに好きになった。ソフィア演じたアイシュもここまで緊迫した役は見たことがなかったのでずっと目が離せなかった。
月並みの感想しか言えなくて本当に歯痒い。人間が抱く、生と死に対する意識に興味のある方には観ていただきたい映画です。Netflixの言語設定を英語にすると視聴可能なのでぜひ。