KANA

ウイークエンドのKANAのレビュー・感想・評価

ウイークエンド(1967年製作の映画)
3.8

これはゴダール作品の中で最も常軌を逸した作品なのでは?

パリに住むブルジョワ夫妻が実家のある田舎町へ向かう道中に待ち受ける狂気と悪夢。
…プロットはこうサラッと済ませられるのに、ディテールは一筋縄ではいかない。

残忍なバイオレンスと卑猥な性的倒錯、
加えて政治的揶揄に童話の世界観もあり、
さらにアートもありという、超ハイブリッドな仕上がり。

まず印象的なのが、田舎へ向かう道での大渋滞のシーン。
絶え間なくけたたましいクラクションが鳴り響く中、300mの列に沿ってじっくりとカメラを進める10分に及ぶワンカット長回し。
確かJシューマーカーの『フォーリング・ダウン』にも似たような光景があった記憶が。
ドライバーたち同様観ててノイローゼになりそうなくらいストレスフルにも関わらず、見入ってしまうこの心理は何なんだろう。
…と思って調べたらどうも"集団ヒステリー"だということで。
それで中毒性があるのかなぁ、おそらく。

そもそもこの夫婦の間には愛は微塵もなく、目指すは妻の親の遺産。
それを得たら相手にどうやって死んでもらおうか互いが考えている。
なんなら二人とも不倫している。
冒頭は、妻が愛人に他人との異常な快楽体験(『眼球譚』が元ネタ)を語るシーンから入るし。
こんな主人公にはさらさら感情移入できない。

だけどゴダールの狙いはまさにそこらしい。
二人を物質主義の象徴になぞらえてじわじわ虐げていくという。

とはいえカニバリズムに至るまで不謹慎極まりない映像表現。
そして不条理。
パゾリーニか?トリアーか?

そしてお得意の引用台詞の洪水。
政治批判だったり詩的だったり、仮に教養が十分あってその内容の知識をすべて備えてたとしても、ゴダールの意図ははかり知れないと思う。
というか実態はないのかも。玉ねぎのように。
ただ、表現したい!っていう瞬間的なパッションは確かに感じられる。

"潜伏"する覚悟を決め、締めとしてヌーヴェルヴァーグ期のエネルギーを思う存分、好き放題に出し切ったような本作。
これに系統立ったレビューなんて書けない。
…ただ、決して嫌いじゃない。


※ジャン=ピエール・レオーとアンヌ・ヴィアゼムスキーが出てたのは嬉しい驚きだった。
主演のミレーユ・ダルクはもう2度とゴダールとは仕事したくないとインタビューで答えている。笑
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