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これが私の人生設計のbirichinaのレビュー・感想・評価

これが私の人生設計(2014年製作の映画)
4.5
パオラ・コルテレージ主演作のなかでいちばん好きな作品。(最近は子育てでイラつく女性の役が多くて、ちょっと残念。)

そもそもイタリアでは新しい建物を建てる機会が少ないので、建築家がいい仕事にありつくのはとても難しい。そのうえ女性(イタリアは実はとても男尊女卑の社会構造)となればなおさら。だから主人公の優秀な女性建築家セレーナ・ブルーノは海外で仕事をしてきた。でも雨続きのロンドンで太陽が恋しくなり、ついに帰国を決意。(一枚だけ残るバジルの葉を愛おしそうにちぎってスパゲッティに入れるシーンがかわいい。パスタの水切りザルの穴がイタリア国土ブーツ型になっている!)
ローマで暮らし始めた主人公は、低所得者層が住む大規模集合住宅のリノベーション事業の公募を見つけて応募。女だからどうせ落選だろうと思っていたが見事選ばれる。からくりは、セレーナは女の名前、ブルーノは男の名前。ただどちらも姓にも名にもなる名前で、かつイタリアでは姓を先に書くのも名を先に書くのもありなので、審査員が勝手に男の建築家と間違えたのだ。そのことに気づいたセレーナは、自分は建築家ブルーノ氏の助手だと言って最終面接を切り抜け、このビッグチャンスをものにしようとする。

タイトルの「scusate se esisto」はセレーナのセリフで二度出てくる。
一度目は最終面接で審査員たちが彼女を前にして「ブルーノ氏はどこにいる?」と言うシーンで、「すみません、私なんですけど」
二度目は相棒となるゲイのフランチェスコが、彼女の前で恋人(もちろん男)とキスを始めた時、「すみません、私ここにいるんだけど」

前半、セレーナがフランチェスコと仲良くなるまでが少し冗長に感じたが、
フランチェスコと7歳の息子のエピソードはどれもよかった。
何を聞かれても「ふつう」としか答えない息子が、セレーナの母たちも一緒の夕食で食後のジェラートを食べながら、ちょっとしたきっかけでついに父親に心を開くシーン。父親のレストランの厨房で、友達の家におみやげに持っていくフライドポテトを揚げるシーン。母親の家に戻る日にセレーナに「パパがゲイでなかったら、君がパパの最高の相手だよ」と言うシーンなど。
フランチェスコは息子に自分がゲイだと打ち明けることができなかったけど、子どもは気づくものだ。そして、まだ世間の目を気にする年頃でない子どもなら、ゲイの父親も問題なく受け入れてくれる。

フランチェスコの恋人二コラは「アンナ・カレーニナ」の一節をポロッと口にする。「幸せな家族はみんな似てるけど、不幸な家族はそれぞれ」。一見おちゃらけた人物でも実は違うこともあるんだ、と先入観にクギを刺され、スミマセンと思い知らされる。

建築家の事務所の若い女性社員、毎日のように社長に「いつもスマートだね」と言われていたけど、最後に臨月近いお腹を突き出し、妊娠していることをばらす。他の社員たちも次々と社長に隠していた自分をさらけ出す、縮こまっていたマイノリティたちが自分を主張し始める、スカッとするシーンだ。
二コラを始め脇役たちが粒ぞろいで、随所で気持ちよく笑える。

2020年3月2日のROMA TUDAY(Webニュース)によると、この「KM VERDE」プロジェクトは2019年夏にようやく着工したとのこと。

結局、セレーナはフランチェスコでなくコピー係の男とくっついてしまうのか、、それだと残念。それはともかく、96年産のフランチャコルタは絶品なのか、飲んでみたくなった。
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