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アイヒマン・ショー/歴史を写した男たちのhinanoのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

イスラエルで行われたナチスの戦犯、アドルフ・アイヒマンの裁判を世界テレビ中継する為に奔走した製作陣の視点から観る、全く新しいホロコーストの映画。劇中では実際の裁判の映像も巧みに織り込まれており、多少展開が早く感じる部分もありましたが、実話に基づいてるだけあり解説も細かく、かなり見応えがありました。
恥ずかしながら、この映画を通してはじめてアドルフ・アイヒマンという男の存在を知りました。劇中に登場する実際にユダヤ人が迫害されている映像や、証言者たちの体験談は想像を絶するもので、とても直視できるものではなく、アイヒマンに対する憎い気持ちも積もります。しかし、フルビッツが何度も繰り返し主張する、“アイヒマンは我々と変わらない凡人であり、状況下によっては誰しもがファシズムになり得る可能性がある”という考えは納得できるような……もちろん、アイヒマンの行ったことは許されることではないですし、肯定するつもりもありませんが、裁判中も何の躊躇いもなく何度も己の無実を主張するアイヒマンの姿、ただ自分は上司の命令に忠実に従っただけなのだと訴える彼の姿からは、“戦争”という状況下に置かれた1人の人間が、その環境にただ順応する為に必死に生きていたようにも見えました。この裁判の1年後に実際に行われたという、ミルグラムの服従実験も賛否両論あるようですが、アイヒマンの心理学はとても興味深いものですね。アイヒマンについて描かれた映画は他にもあるようなので、是非鑑賞してみたく思いました。

戦争やホロコーストに関して語られる映画は沢山ありますが、それらを全て観たとしても、当時を知らない私たちは全てを知り尽くすことは出来ないでしょう。しかし、色々な視点から映画を通してその事実に触れることは、今の平和な時代に生まれた私たちには必要なことではないのでしょうか。戦争を知らない人々から、第二のアイヒマンが生み出されない為にも。この映画がまた少しでも多くの人々の目に留まることを願います。
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