しの

インクレディブル・ファミリーのしののレビュー・感想・評価

3.6
Filmarks招待のジャパンプレミアで鑑賞。エンタメとしての質は前作から断然上がっている。ヒーローのアクションは動きもスケールもパワーアップ。場面転換はより多くテンポはより軽妙に。前作からの14年間における時代の変化を捉えた自己言及的なテーマにドキッとする。

まず確かなのは、2時間ずっと釘付けにさせる面白さと工夫が前作以上に詰め込まれていること。基本的にヒーローとしてのアクションパートと、一般人としての日常パートに分かれるが、どちらも前作以上に面白く、物語的なメリハリとしても効いている。

アクションは他の実写ヒーロー映画に引けを取らない迫力を出しつつ、アニメーションの快楽を最大限に感じさせる自由でアイデア性に富んだものとなっており、正に良いところ取り。では日常パートはというと、これがシュールなコメディとして非常にうまく機能している。ここで子育ての難しさといったリアルなテーマをさりげなく描く手際の良さも流石。

ただしこの作品、良いところと悪いところがとてもハッキリしている。というのも、ここまで触れてきたようなエンタメとしての面白さについては文句なしであると胸を張って言えるのだが、では物語としてのテーマ性はというと、これは一転してあまり上手くないと言わざるを得ないのだ。

まず、14年という長い歳月における時代の変化を捉えた鋭いテーマを描いてきたこと自体には驚いた。即ちそれは行き過ぎたテクノロジーと消費活動への警鐘だ。

この14年でテクノロジーは進化し、コンテンツは溢れかえるようになった。それは本作のようなヒーロー映画とて例外ではない。MCUやDCFUをはじめとし、今やヒーロー映画は飽和状態となっている。本作はそれを享受する我々に、「お前たちはヒーロー映画をエンタメとして消費することで、自分がヒーローになったつもりになっているのではないか」と投げかける。他人と喋らずトークショーを観る時代。同じように、今は正義を実践せずヒーローにそれを委託してしまう時代だというのだ。少なくとも本作の観客である以上我々はこの問題提起から逃れられないわけで、これは挑戦的であると同時に非常にクレバーな作りだなとワクワクした。

ではこの問題提起はどう決着するかというと、なんと旧来的な「ヒーロー映画」的展開で有耶無耶にされてしまうのである。これは吟味が足りないと言わざるを得ない。さらに厄介なのは、前述の通り、その旧来的な展開自体はエンタメとしてひたすらに面白いということだ。つまり、本作をエンタメとして楽しめば楽しむほど、テーマとの矛盾を感じ、居心地の悪さを感じてしまう。観ている間は面白いが、後味は良くない。

他のテーマについてもやはり煙に巻かれた感じはしてしまう。例えば女性の活躍、育児の難しさ、家族の分裂と団結……などなど、一部の要素は前作で描いたことの繰り返しに思えてしまうと同時に、結局どれも単純な「ヒーロー映画」の文脈に吸収されてしまっている感じがあり、やはり作品の構造自体に無理が生じている感は否めない。

あと、本作は時系列が一作目の直後という設定なので、当然スマートフォンを出すことができないし、テレビも旧式のタイプしか出せない。にもかかわらず、「行き過ぎたテクノロジー」や「画面越しの消費」といった現代的なテーマを描くのでちょっとチグハグ感がある。これも地味に気になったところ。

映画のエンタメ性とテーマ性がここまで明確に喧嘩している作品もなかなか珍しい。ピクサー印の安定した高品質さは感じられたが、本作はそれだけでなく、ともすれば実写ヒーロー映画が溢れかえるこの時代に、アニメーション映画が外から様々な意味で「一石を投じる」ような強烈な傑作になったはずだ。楽しくはあるが、だからこそ非常にもったいない。
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