螢

LION ライオン 25年目のただいまの螢のレビュー・感想・評価

3.5
インドで5歳の時に迷子になり、オーストラリアに養子に出された男性が、記憶の断片を辿りながら、Google earth を駆使して、迷子から25年後にインドの自分の家を探し当てる…、という実話に基づくお話。

あちこちに掲載された、そんな紹介文そのままの、至極シンプルな展開のお話なのだけど、それ故に、かえって、テーマが際立って明確に見えてくる作品。

インドで生まれ、オーストラリアで育った青年サルーは、学業も、仕事も、恋人も、良好だった里親との関係に溝が出来ていくのもかまわず…それこそ、全てを投げ打つように、検索作業に没頭していきます。

そんな彼の執着心と異常とも思える姿は、

「自分は一体何者なのか?どこから来たのか?」

という問いに突き動かされており、その答えがわからないことが、どれ程辛いことであるかと同時に、存在の自己肯定の土台として欠かせないものであることを、まさに直球で突きつけてくるのです。

インドからオーストラリアに渡り、国籍まで変わったサルーほどでなくても、例えば、父親を知らず、母親にも教えてもらえず、戸籍にさえ父の名の記載のない、いわゆる日本の法律では「嫡出ではない子」と定義される人や、施設等で育ち、実の家族の手がかりがないままの人などは、同じように、自己のルーツやアイデンティティを求めて少なからず苦悩し続けているのかもしれません。

物語の最後、インドの家族と再会し、とても晴れ晴れとしたサルーの表情を見ると、家族の事情があってルーツがわざと明かされない、もしくは明かせないことも当然あるのでしょうが、できるのであれば、子供たちが成人した時に、辿るか辿らないか選択できるだけの手がかりを用意しておくのも、関わる大人の義務なのかもしれない…と強く思わされた作品です。
螢