むーしゅ

LION ライオン 25年目のただいまのむーしゅのレビュー・感想・評価

4.4
 ノンフィクション本の"A Long Way Home"をベースとした作品。日本語版の本のタイトルは「25年目の「ただいま」 5歳で迷子になった僕と家族の物語」で、邦題のサブタイトルはこの引用。ライオンだけでは確かに謎すぎるのでこれくらいの邦題は好きです。映画を見る人はほとんどが「Google Earthで探す話らしいよ」と聞いていると思いますし。

 インドの田舎街に住む5歳のサルーは駅で兄グドゥとはぐれ、ひとりで長距離列車に乗ってしまい1,500キロ離れた別の街で保護される。その後オーストラリア人夫婦に引き取られオーストラリアのホバートで育ったサルーは、友人たちからの勧めでGoogle Earthを使って本当の家族を探しはじめる、という話。イギリスの詩人バイロンの言葉で「事実は小説よりも奇なり」とは言われますが、まさにそれ。彼の人生をたどるだけで大半の映画のストーリーより面白いんじゃないかという。これは版権の取り合いになったんじゃないですかね。その中で実際に映画化する権利を勝ち取ったのは、今作が長編デビュー作となるGarth Davis監督で、これは製作会社もなかなかすごい決断をしたものです。

 この映画はとにかくストーリーが出来過ぎています。5歳の少年が迷子になったことでホームレスとなり、色々なひとに出会いながらも最終的に施設に入ることが出来た前半部分。インドで年間8万人以上いるといわれている子供の行方不明のうち何人が同じ経路を辿れるのかはわかりませんが、そうでは無いとどうなるのだろうと、思わず人身売買や臓器売買が浮かんでしまいます。また本当の親を探すことが育ての親を悲しませるのではないかと思い、苦悩する後半部分。ノンフィクションだからこそ、説明されなくても容易に想像できる主人公の感情が物語に常に寄り添います。結末がわかっているのに、サルーと一緒になって一喜一憂してしまいます。最後にインドへ探しに行く際にサルーがもう現地の言葉が話せなくなっていますが、そこもリアルで良いですね。その国こそが母国なのに、と思うと胸が締め付けられました。

 また何といっても子供時代のサルーを演じるSunny Pawarが素晴らしい。2,000人の中から選ばれたという彼の存在感といったら本当にすごい、というかとにかく可愛い。ちょっと首を伸ばして不安そうな顔でキョロキョロしながら「グドゥーーー」と兄の名前を叫ぶ姿が凄まじい破壊力で、こんな迷子がいたら前を素通りできるわけないでしょというレベル。さすがにこんな幼い少年にアカデミー賞をあげられなかったのだと思いますが、同年主演男優賞は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のCasey Affleckが受賞しているので、なおさら彼の受賞も有り得たのではないかと思ってしまいます。そのバーターなのか何なのか代わりに青年期担当の「スラムドッグ$ミリオネア」でお馴染みDev Patelが助演男優賞にノミネートされましたが、映画を見た人はSunny Pawar演じる幼少期の方が断然記憶に残っていると思います。

 そして忘れてはいけないのは、この映画の1番の衝撃は物語が終わってからやってくるということ。エピローグを文字で表示する映画はたまにありますが、この映画はそこに衝撃ネタを2個も持ってくるという、ある意味映画としては禁じ手のような手法を使っています。ストーリーや映像美では無く、そんなところで崩れ落ちるかのような思いをする映画は初めてでした。特にライオンというタイトルの説明に関しては言葉が出ません。正直作品を通してあまり大きなこだわりを感じず、原作とSunny Pawarのすばらしさに牽引されている作品ですが、唯一ここだけはGarth Davis監督のこだわりかもしれないですね。なにせ原作本"A Long Way Home"には無い別のタイトルを付けたわけですし。あれタイトルなんでライオンなの?これいつもの勝手につけられた邦題?と思わせておいて、最後に理由がわかるという。このタイトルの意味ともう1つの衝撃は答えだけ聞いてもきっと響かないので是非体感してほしいです。

 モデルとなった家族には実はもう一人男兄弟がおり、この行方不明事件によって子供の数が減ってしまったので、残った子供は無事に学校へいかせることが出来たそうです。また現在はサルーの援助もありインドで幸せに暮らしている様子。幼少期のサルーの身におきた出来事は決して良いこととは言えませんが、母の祈りが通じたのか結果として家族が幸せに向かっており素晴らしいです。インドはやっぱりドラマのある国ですね。