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マネー・ショート 華麗なる大逆転のMSTYのレビュー・感想・評価

4.0
原題は『The Big Short』(大規模な空売り)。金融をテーマにした作品です。

この映画は、リーマン・ショックの背景を知っているとより興味深く観ることができますので、まず簡単に背景を説明します。

アメリカでは日本と異なり、住宅ローンの債権が証券化されていて、投資の対象になっています。2000年代前半のアメリカでは住宅の価格が上昇しつづけており、サブプライム・ローン(お金をそれほど持っていない人でも組める住宅ローン)の債権証券に対して格付け会社が高評価を与えていました。そのため、サブプライム・ローンに投資をする人がたくさんいたのです(このローンは利率の高いローンであったため、住宅価格がこのまま上昇をし続けなければ維持できないものでした)。

住宅価格の上昇は住宅の建築ラッシュを引き起こしました。ところが、この建築ラッシュによって、住宅が余るという事態が起こり、2007年の夏ごろから住宅価格が下落しはじめます。さらにこの頃になると、ローン初期の低利キャンペーンの期間が終了し、ローンの支払い額が増えてしまう人がどんどん現れました。そもそもサブプライム・ローンはお金をそれほど持っていない人を対象としたローンであるため、ローンを支払えなくなって住宅を差し押さえになってしまう人が増えてきたのです。

こうなると、サブプライム・ローンの債権証券も価値を失ってしまいます。証券を多数保有していた会社は、証券価値の下落に伴う損失をどうにかすることができなくなります。この証券を多く保有していた大手投資銀行のリーマン・ブラザーズは、巨額の負債を抱えて倒産します。世界第4位の規模の投資銀行であったリーマン・ブラザーズの破綻という出来事は、この会社の取引先や、この会社の社債を保有する企業など、多くの業界にも影響を与え、アメリカという国の経済に対する不安を人々に感じさせてしまうほどの大きな金融危機を招くことになりました。これがリーマン・ショックです。

この映画は、住宅価格の上昇が続いていくと多くの人に信じられていた状況下で、サブプライム・ローンに潜んでいるリスクの大きさにそれぞれの立場からいち早く気付いた4人の男を主要なキャラクターとして据えています。彼らは、住宅バブルが弾けることを予期し、たとえば「クレジット・デフォルト・スワップ」という金融取引を利用するといった形で、空売りによって利益を得ようと画策します。

劇中ではさまざまな金融用語が登場し、適宜、解説のテロップが挿入されますが、無理に理解しようとしなくても勢いで結構楽しめます(もちろん、理解した上で観れば、さらに興味深く観ることができるでしょう)。いずれにせよ、金融という難しい題材をエンターテインメントに昇華させた点は本当にすごいと思います。

ちなみに、「マネー・ショート」という邦題は和製英語です。英語で使われる言い回しに「short of money」というのがありますが、これは「金欠」という意味です。「I'm short of money」と言えば、「わたしはお金を持ってない」という意味になります。主要キャラクターの4人は金欠どころか空売りによってむしろ利益を得ていますし、それ以外の人や企業は金欠というレベルを飛び越えており、下手すると破産にまで至っています。なので、邦題がこのようになった理由については、個人的にはちょっと謎を感じています。
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