MikiMickle

たかが世界の終わりのMikiMickleのレビュー・感想・評価

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)
4.0
原作は若くして亡くなったジャン・リュック・ラガルス。

12年。ルイ(ギャスパー・ウリエル)は、12年ぶりに故郷へと帰る。
自分の死が迫っている事を告げに…

母は息子に会う為に彼の好きな料理に張り切り、オシャレをする。
別れた当時は幼く、ルイをあまり覚えていない妹シュザンヌ(レア・セドゥー)もめかしきって興奮してルイを迎える。ルイから届く絵葉書を宝物にし、彼に憧れを持っている。
しかし、一方で兄のアントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)はやけに引っかかってくる。アントワーヌの妻のカトリーヌ(マリオン・コティヤール)とは初対面だが、何かしら通じるものがあり…


冒頭、挿入歌では「家は救いの港じゃない」と流れる。しかし、車中でルイの後方に見える赤い二つの風船は、寄り添い離れ……このシーンだけでも心を何故か鷲掴みにされる。
ドラン監督の持つ独特の雰囲気に呑まれる。

実家に帰ると、家族の喧騒が見られる。喧嘩や馴れ合い。昔話。それはやけにギスギスとしているが、ルイにとっては失ったものそのもの。
居心地の悪さは彼の罪と悲しみでもある。

ドラン監督は、家族というものを1番近くて1番遠い存在として描く。
今回特に感じたのは、その中で“会話”というものがいかに難しいものであると言う事。
張り詰めた、しかし、隠れた愛のある会話の中の間と言葉の選択。
自分の死を告げる事はなかなか出来ない。
すれ違いと深み… 確執… 真意と建前。


そして、説明せずとも心を魅せる、繊細で儚げな心理描写は、画面一杯に写し出されるアップの複雑な表情と共にやはり健在で。
特に、母と二人きりで話す離れのシーンは言葉にはされていない思いや葛藤がぎっしりとつまったものだった。
穏やかな光の中で揺れるカーテンは、幼き頃の母の思い出。母がつける指輪。香水を嗅がせる母。
そこには、母への郷愁だけでない、ルイの感じる女性像の戸惑いもある。
ゲイを公言し、その観点から作品を取り続けるグザヴィエ・ドランから見た女性像及び母親像は、毎回違った肖像で表されるように思える。が、根本的には同じである。家族としての切れる事の出来ない愛と、嫌悪感と、すれ違いと、それでもやはり愛…

また、兄弟間でいえば『トム・アット・ザ・ファーム』でも見られたように、相容れない確執と家族故の憎しみと…傍若無人な兄アントワーヌがなぜそこまでルイに対して冷たいのか、それは二人の多くはない会話と家庭状況を見ていくと自ずと伝わって来る。

音楽で言うと、まさか「恋のマイアヒ」で涙腺が緩むとは思ってもなかった。まさか飲ま飲まイェイで泣くとは……w 歌詞を調べてみたところ、その映像としっくり来すぎて、また胸が締め付けられた。

ドラン監督の映画を見ると、なんでこんなものを撮れるのだろうと、毎回思う。もちろんセンスの質でもあるけれど、毎回上っ面ではない、自身の感情を真摯に込めたものを作っているからでもあるのだと思う。

怒涛のラスト。何故、ルイがこの道を選んだのか。「人には、去る理由も戻る理由もある。」という冒頭の言葉がささる。そして、鳩時計は時を告げる…… どう感じるのかは見た人によって違うだろう。
エンドロールのMobyの「Natural Blues」 どうしようもなく深い孤独抗う力さえ失うほど永遠に終わらない夜誰も知らない心の闇……深い余韻がしっとりと残る。
MikiMickle

MikiMickle